あなたはベンチャー企業にどのような印象を抱いていますか?一般的に、新しい事業や技術で成長や拡大を目指す、設立から比較的時間の経っていない企業をベンチャー企業と呼びます。

革新的なビジネスモデル、ダイナミックな事業展開、ベクトルの合った仲間、フラットで風通しのよい組織、大きな裁量、柔軟な働き方など…。転職を検討するにあたり、このようなイメージに惹かれ、憧れや魅力を感じている方もいらっしゃるかもしれません。同時に、「安定性が低いのでは?」「長時間労働になるのでは?」といったイメージもあり、不安を感じているかもしれません。
しかし、その憧れやマイナスのイメージは本当に正しいのでしょうか?
この記事では、ベンチャー企業への転職を考えている方に向けて、本当に自分に合ったキャリアの選択ができるように情報をお伝えします。一般的なベンチャー企業のイメージに捉われながら転職活動を進める前に、ぜひ立ち止まって読んでいただきたいです。

目次

1. ベンチャー企業に惹かれる理由

多くの人がベンチャー企業に魅力を感じる理由には、いくつかの共通点があります。ここでは、その主な理由を探っていきましょう。

1.1 スピード感ある環境での仕事

ベンチャー企業の特徴の一つは、その意思決定の速さです。大企業では複数の承認プロセスを経なければならない案件も、ベンチャー企業では迅速に決定され、すぐに行動に移せることが多いです。意思決定の速さにより事業がどんどん前に進むことができる、合理的な決断により無駄な回り道をせず目標に向かって最短距離で進むことができる、このスピード感に惹かれ、転職を検討する人は少なくありません。

1.2 革新的なカルチャーと挑戦

ベンチャー企業は往々にして、既存の枠組みにとらわれない革新的なアイデアや製品、サービスを生み出そうとしています。新しい取り組みに共感し好奇心をくすぐられたり、柔軟なカルチャーの中で自分のアイデアも実現できると考え、惹かれる人も多いです。

1.3 大きな裁量と責任ある立場

ベンチャー企業では、組織の規模が小さいことから、一人ひとりが担当する業務の範囲が広くなりがちです。大きな裁量を持って仕事に取り組める反面、それだけ責任も重くなることを意味しますが、自分の力を試したい、より大きな責任を持ちたいと考える人にとっては、うってつけの環境です。

1.4 成果主義の評価制度

多くのベンチャー企業では、年功序列ではなく成果主義の評価制度を採用しています。自分の努力や成果が直接的に評価やキャリアアップにつながると考える人にとって、早期に評価を受けられる環境はとても魅力的です。

1.5 柔軟なワークライフバランス

ベンチャー企業の中には、フレックスタイム制やリモートワークなど、柔軟な働き方を導入している企業も多くあります。多様性が尊重される時代、自分のライフスタイルに合わせた働き方を実現したい人には、柔軟な働き方を取り入れた環境が魅力的に映ります。

これらの要素はベンチャー企業の魅力であると同時に、懸念点との表裏一体である傾向にあります。
たとえば「少数精鋭で一人当たりの裁量も大きい」といえば自由度が高く幅広いチャレンジができるように思えるかもしれませんが、実際には人手が足りず、一人当たりの業務量が多い中でタスクに追われて、与えられた裁量を発揮しきれない可能性もあり、あくまで是々非々で考える必要があります。

また、これらのイメージに捉われて入社すると、現場の業務とギャップが生じる可能性もあります。
たとえば「自分のアイデアを実現できる」というと、事業の立ち上げフェーズに関与できるチャンスがあるように思えるかもしれませんが、ベンチャーといっても事業拡大のフェーズにある企業に参画した場合は、既にサービスや仕事の進め方が確立されており、画一的な仕事のやり方を求められる可能性もあります。
いずれにせよ、志望する企業の実態をしっかり確認し、自分の求める環境なのかどうかを冷静に判断する必要があります。

2. ベンチャーの環境で成功する人の傾向

先述の通り、ベンチャーと呼ばれる企業ではイメージと現実のギャップが大きく、実際、転職をしてみたものの働いてみて後悔する声もよく耳にします。一方で、そのようなギャップを乗り越えて活躍する人には、いくつかの傾向があります。ここでは、いわゆるベンチャー企業の環境で活躍する人の特徴を見ていきましょう。ただし、これらは一般的な傾向であり、全ての人に当てはまるわけではありません。

2.1 企業のビジョンやビジネスに強い共感を持つ人

企業が目指すビジョンや解決したい社会課題に強く共感する人は、その企業で活躍する傾向が強いです。単に「給料が高い」「名前が知られている」といった外的な要因だけでなく、企業の存在意義や方向性に共感できることが重要です。

特に、ベンチャー企業では困難や予期せぬ事態に直面することが多々あります。そんな時、企業のビジョンへの強い共感があれば、困難を乗り越える原動力となります。

2.2 キャリアビジョンを明確に持っている人

自分自身のキャリアビジョンを明確に持っている人は、仕事を通じて得られる経験を自身の成長に効果的に活用できる傾向があります。「このスキルを身につけたい」「こんなキャリアを築きたい」という具体的な目標があると、変化の激しい環境の中でも、自分の方向性を見失わずに進むことができます。

また、自身のキャリアビジョンと企業のビジョンを擦り合わせることで、Win-Winの関係を築きやすくなります。自分の成長が企業の成長に直結し、企業の成長が自分の成長を加速させるという好循環を生み出すことができるのです。

2.3 課題解決に主体的に取り組める人

ベンチャーの環境では、前例のない課題に直面することが多々あります。そんな状況下でも成功する人は、与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら課題を見つけ、解決策を考え、行動に移せる人です。

「これは自分の仕事ではない」と線引きするのではなく、「自分にできることは何か」と考え、積極的に行動する姿勢が求められます。このような主体性は、企業の成長スピードを加速させる重要な要素となります。

もしあなたが「社会を変えるような仕事がしたい」「将来こんな仕事がしたい」といった強い想いを持っていたり「課題を解決することが楽しい」「新しいことにどんどん挑戦したい」といった仕事観を持っているとしたら、ベンチャーの環境でその感性を活かせる可能性があります。一方で、こういった価値観や仕事観を自覚しないままベンチャーに進んでも、入社前と入社後で大きくギャップを感じて後悔するかもしれません。ベンチャーへの転職を検討する前に、自分がやりたいことやモチベーションが高まる瞬間を特定して言語化してみたり、ベンチャー以外の転職も選択肢に入れてみるなど、仕事探しの軸を見直してみてください。。

3. 本当に最適な転職先は?

3.1 そもそもベンチャー企業とは?

一般的に、ベンチャー企業は以下のような特徴を持つと言われています:

  • 革新性や成長志向が強い
  • リスクを取って新しい市場や技術に挑戦する
  • 創業からの期間が比較的短い
  • 柔軟な組織構造と迅速な意思決定プロセスを持つ
  • 高い成長率を維持している、または目指している

しかし、実際のところ「ベンチャー企業」の明確な定義は存在しません。たとえば、上記に当てはまるような企業といえば、創業間もないスタートアップ企業をイメージするかもしれませんが、既に知名度の高いサービスを有する上場企業であっても、革新性や事業スピードなどの特徴からベンチャーと呼ばれることもあります。

また、革新的なビジネスモデルを持つような企業をイメージされることも多いかもしれませんが、たとえば創業からの期間の短さや成長志向の強さなどの特徴を持ち合わせつつ、他社と大きな差異がないビジネスを展開する企業でもベンチャーと呼ぶ場合もあります。
その他、創業から長い歴史を持つ企業であってもカルチャー面を指してベンチャーと呼ぶこともあり、その実態は実に曖昧です。

そのため、転職を考える上では、「ベンチャー企業」というラベルにとらわれすぎず、一社一社の具体的な特徴を丁寧に見ていくことが大事です。企業の理念、事業内容、組織文化、成長段階、そして自分のキャリアゴールとの適合性など、多角的な視点で企業を見ていきましょう。

3.2 ベンチャー以外の選択肢を考える

転職を考える際には、ベンチャーに限らず様々な選択肢を検討してみましょう。ベンチャー企業に惹かれる理由(スピード感、裁量、挑戦など)は、他の選択肢でも実現できる可能性があります。例えば、大企業であっても新規事業部門であれば、大きな裁量を持ち、自身のアイディアを活かしながら事業作りに関われる可能性もあります。また、中小企業でも革新的な取り組みを行っている場合もあり、それが自身の価値観ややりたいことに合致している場合もあるかもしれません。もし将来的な起業のためのノウハウを積むために転職を検討しているなら、正社員にこだわらず、フリーランスや起業という形でやってみるのも手段の一つです。

4. 自分のやりたいことを整理してみよう

ベンチャーへの転職が最適なのか、ひいては、自分に本当に合う転職先はどういった企業なのかを検討するために、自分自身のキャリアについてより深く掘り下げていきましょう。

4.1 ベンチャーに惹かれる理由を紐解く

この記事を読んでいる方の多くは、ベンチャーへの転職に少なからず興味を持っているのだと仮定します。
ここで一度立ち止まり、なぜ「ベンチャー企業で働いてみたい」という思ったのか、その理由を振り返ってみてください。

  • 大きな裁量を持って仕事をしたい
  • スピード感のある環境で働きたい
  • 革新的なプロジェクトに携わりたい
  • 若いうちに重要な役職につきたい
  • 起業の準備として経験を積みたい

これらの理由を一つ一つ掘り下げてみましょう。例えば「大きな裁量を持って仕事をしたい」という理由の背景には、「自分のアイデアを形にしたい」「自己実現をしたい」といった、より本質的な欲求があるかもしれません。また、「若いうちに重要な役職につきたい」「起業の準備として経験を積みたい」といった理由の背景には、現職においてキャリアアップや成長の機会が得られない不満もあるかもしれません。まずは自分がどのような欲求を持っているのかを自覚するところからスタートしてみましょう。

4.2 転職で実現したいことを言語化する

ベンチャー企業に惹かれた理由をさらに掘り下げ、転職で本当に実現したいことを自分自身との対話を重ねることで明確にしていきます。
自分の欲求の根幹にある本当の願望を言語化してみましょう:

  1. 自問自答を繰り返す: ベンチャー企業に惹かれた理由に対して、「なぜ」という問いを繰り返し投げかけます。
  2. 根本的な欲求を特定する: 「なぜ」を繰り返すことで、表面的な理由の奥にある本質的な欲求を見つけ出します。
  3. 具体的に言語化する: 特定した欲求を、具体的かつ明確な言葉で表現します。
  4. 転職の軸を設定する: 言語化した欲求を、転職活動における判断基準(軸)として設定します。

いくつか例を挙げてみましょう:

自問自答の例:「大きな裁量を持って働きたい」場合

  • Q1: なぜ大きな裁量を持って働きたいのですか?
    A1: 今の仕事には自由がなくて不満がある。
  • Q2: なぜ自由がないことに不満を感じるのですか?
    A2: 自分のアイデアや意見を活かせる場がなく、言われたことをこなすだけの仕事が続いくことがストレスである。
  • Q3: なぜ自分のアイデアや意見を活かしたいと思うのですか?
    A3: 自分を発揮して成果を出せた方が達成感を得られるし、成長を感じられる。
  • Q4: その達成感や成長を求める背景には何があるのでしょうか?
    A4: 学生時、サークル運営に関わっており、自分が企画したイベントで皆が喜んでくれたり、主体的に動くことでたくさんの経験を積めたことが嬉しかった。その経験から、言われたことをこなすのではなく、自分自身で動いてこそ、大きなやりがいと成長を得られるものだと信じている。
  • Q5: では、本当に求めているのは大きな裁量だけなのでしょうか?
    A5: 自分が求めているのは大きな裁量そのものではなく、人のためになるようなことを自分の意志でとことん追求できるような環境なのかもしれない。

自問自答の例:「スピード感のある環境で働きたい」場合

  • Q1: なぜスピード感のある環境で働きたいのですか?
  • A1: たくさんの経験を積んで、早期に成長を実現したい。
  • Q2: なぜ早期の成長を実現したいのですか?
  • A2: 同年代の社会人と比べて、成長速度が遅いことに不安がある。
  • Q3: なぜ同年代と自分を比べてしまうのですか?
  • A3: 周りの友人たちが次々と成果を上げているのを見て、自分もその流れに乗らないと置いていかれる気がするから。
  • Q4: その「置いていかれる」という気持ちはどこから来ているのでしょうか?
  • A4: 昔から、何かを達成するのが遅れると自分に自信がなくなる癖があって、遅れを取ることが怖いんだと思う。
  • Q5: では、あなたにとって本当に大切なことは何ですか?
  • A5: 本当に大切なのは、他人と比べることではなく、自分のペースで、自分の価値観に基づいて歩んでいくことなのかもしれない。

このように、自分自身と深く対話を重ねることで、表面的な理由を超えた本質的な欲求を見出すことができます。漠然とした想いがより明確になる場合もあれば、想像していなかったような自分の側面に気付くこともあるかもしれません。こうしたプロセスを経て磨かれた「軸」は、転職活動の明確な指針となります。

4.3 定めた軸に沿って仕事を探す

自分のやりたいことが明確になったら、それを軸にして仕事を探していきましょう。自分の目標や価値観に合致する仕事であれば、ベンチャーに限らず、大企業であっても、中小企業であっても検討の価値があるかと思います。

自分の軸が明確になっていれば、企業理念やビジネスモデルへの共感や、職場環境、条件待遇についての評価も明確になってくるはず。また、企業研究にどのような情報を収集すればいいかも明確になり、企業ホームページを見るにしても、口コミサイトやSNSを見るにしても、情報感度が高まり、より効果的な情報収集が出来るようになるかと思います。もしかしたら求人サイトやエージェントなどの転職サービスも既に利用しているかもしれませんが、転職の軸を明確にした上で利用してみると、得られる情報も変わってくるかもしません。

5. まとめ:自分らしいキャリアの選択へ

ベンチャー企業への転職は、多くの可能性と同時に課題も併せ持つ選択肢です。大切なのは、表面的な魅力だけでなく、自分の本質的な欲求や価値観と向き合い、それに基づいてキャリアを選択することです。自己理解を深め、様々な選択肢を検討し、自分にとって本当に意味のある道を選ぶ勇気を持ってください。あなたの決断が、充実したキャリアと人生につながることを心から願っています。