転職活動において、志望動機は非常に重要な要素です。一方で「志望動機がなかなか思い浮かばない」という悩みを抱える方は多いです。特にキャリアチェンジを目的とした転職など、経験のない職種や業種に未経験からチャレンジする場合、自分の経験と企業の魅力を結び付けることが難しく、志望動機を考えるのに苦労すると思います。本記事では、志望動機を考える上での正しいステップと具体的な方法を解説します。
目次
1. 応募企業に合わせて志望動機を考えるのは危険
多くの人がやってしまいがちなのは、応募企業に合わせて志望動機を考えることです。しかし、これは必ずしも良い方法とは言えません。
1.1 面接官が知りたい「志望動機」とは
求職者がアクセスできる企業情報は、基本的にみな同じです。企業のホームページ、求人情報、会社案内などが主な情報源となります。つまり、志望者のほとんどが同じ情報に触れているのです。
これらの情報源には主に企業の事業内容や理念など、対外的なアピールを目的とした情報が記載されています。そのため、これらの情報だけをもとに志望動機を作成すると、他の求職者と似たような内容になってしまう可能性が高いのです。
面接官は日々多くの求職者と面接を行っています。そのため、こうした一般的な志望動機はよく目にしており、そこで特別感を感じることは多くありません。また、よくインターネット上で「人事がうなる志望動機」などという言葉も散見されますが、そもそも面接官は志望動機でその人の優劣を判断するわけではありません。あくまで、応募者1人ひとりを正しく理解するための1つの情報源にすぎないのです。
自分自身を正しく伝える志望動機を作るためには、公開情報をそのまま受け取るのではなく、それを自分自身の経験や価値観と結びつけることが大切です。
1.2 応募企業に迎合するリスク
また、仮に「表面的な志望動機」で転職に成功したとしても、企業への理解の浅さや、自分の希望とのすり合わせの不足により、ミスマッチが生じるかもしれません。
想像していた仕事と違ったり、望むキャリアが実現できなかったりといったミスマッチが生じると、仕事のモチベーションが低下して上手くパフォーマンスが発揮できなかったり、不満によって早期退職に繋がってしまったりと、結果的に転職を後悔してしまう可能性もあります。
長期的なキャリア形成を考える上でも、応募を進めていく際には、企業ありきで志望動機を考えるのではなく、自分の本音として心から語れるような志望動機を考えていくことが大事です。
1.3 本当の志望動機を見つけるための第一歩
心から語れるような志望動機を考えるには、まずは自己理解、つまり自己分析を行うことが大切です。
- 自分の価値観を明確にする
- 長期的なキャリアビジョンを明確にする
- 自分の強みと、それを活かせる場を考える
これらの要素を踏まえて志望動機を考えることで、より説得力のある、自分らしい志望動機が生まれます。
2. まずは自己分析で「軸」を明確にする
より自分らしい志望動機を作成するための最初のステップは、徹底的な自己分析です。
2.1 自分の得意・不得意を知る
これまでの就業経験を振り返り、自分の力がうまく発揮できた場面や、周りから評価された場面を思い出し、自分はどんなことが得意なのかを自覚しましょう。自身の得意なことが分かっていれば、応募する仕事に対して「興味がある」「やってみたい」ではなく、「自分の力が活かせる」といった、より強い志望動機を語ることが出来ます。
一方、自分の不得意を自覚することも大切です。もし興味があるお仕事でも自分の苦手分野だった場合は「この仕事は自分には合わないかも…」と不要な応募を避けることもできます。逆に、苦手分野と分かりつつ「それでもやってみたい」と応募を進めることもあるかもしれませんが、苦手を自覚していればその分覚悟の入れ方や対策の仕方も変わってくるはずです。
2.2 過去の経験から自身の価値観を紐解く
過去の経験、特に何かを決断した経験というのは、その人の価値観が強く表れるものです。進学や就職のときや、趣味やボランティアなど何かを始めた時、辞めた時など、なぜその決断をしたのかといった背景まで深堀して振り返ることで、自分の意思決定の軸を明確にすることが出来ます。また、どんな時に喜びや楽しさを感じるか、どんな場面で自分のやる気が満ち溢れるかなど、自分のモチベーションポイントを理解することもお薦めです。
自分の価値観が明確になれば、その企業のどんな価値観が自分の価値観と重なるか、その企業の中で自分がいかにモチベーション高く活躍できるかを明確にすることができ、志望動機にも深みを持たせることが出来ます。
2.3 キャリアビジョンを明確にする
5年後、10年後に自分はどのような仕事をしていたいか?社会にどのような価値を提供したいか?仕事を通じて何を成し遂げたいか?など、自身のキャリアビジョンを明確に持つことで、その企業で何を成し遂げたいのかも明確になり、会社と共に成長していく意思を企業に示すことが出来ます。
たとえば、「将来はカスタマー部門の責任者を目指したい」という目標がある方であれば、「顧客満足度を向上させる」「リピーターを増やす」といった、その目標に繋がるプロセスも見えてきます。もし企業としてもそこを課題と感じており改善を図ろうとしているのであれば、企業と応募者の目標がリンクし、お互いのマッチングに必然性が産まれてきます。
一方、現時点では具体的なキャリアビジョンが思い浮かばない方もいるかもしれません。その場合は「どうなりたいか」ではなく「どうありたいか」という観点でキャリアビジョンを考えてみてください。
たとえば「個人プレーではなく、常に周囲の人たちと協力しながら仕事を進め、他者の成功も自分のことのように喜べる人間でありたい」といった目標像を持っている方だとしたら、その協調性を大切にするスタンスが応募した企業のカルチャーにマッチする可能性があります。
ここまでお読みいただいたらわかるように、自己分析を通じて自分の得意なことや価値観、ありたい姿を明確にすることで、応募企業との接点が明確になり、志望動機に何を書けばいいのかが浮かびやすくなります。また、自分の軸を明確にすることで、「どんな環境であれば自分らしさが活かせるか」といったビジョンも明確になるので、求人探しをする上でも自己分析は大切です。
3. 「軸」に基づいて求人を探す
自己分析を通じて自分の「軸」を明確にしたら、次はその軸に基づいて具体的に求人を探していきます。
3.1 求人サイトや転職エージェントを利用する
求人探しの第一歩は、適切なツールを選ぶことです。主な選択肢には以下があります:
- 求人サイト:多くの求人情報にアクセスでき、自分で自由に探せる
- 転職エージェント:専門家のアドバイスを受けられ、自分に合った求人を探してくれる
サイトやエージェントによって求人数や特色に差がありますが、自分の希望などに合わせて最適なサービスを選びましょう。サービスの利用は一つに固定する必要はありません。様々なサービスを併用することで、より幅広い選択肢を得られます。
3.2 求人を探す
求人探しには様々なアプローチがあります。
職種から探す
既に希望の職種が明確にある場合は、希望職種を軸に求人を探すのが効率的です。
エントリー可能な求人から探す
希望職種が決まっていない場合は、自分の経歴で応募可能な求人を探してみましょう。自分が経験を持つ業種や職種、もしくは未経験歓迎求人などを軸に探すのがお薦めです。
希望条件で絞り込む
希望職種や自分の経歴に合うかどうかといった要素を軸としつつ、そこから、年収や勤務地、ワークライフバランスなどの条件をさらに絞り込み、自分の希望に合う求人を探します。絞り込み過ぎると選択肢も限られるので、自分の中で妥協点を見つけながら、適度な絞り込みで求人をピックアップしましょう。
このようなアプローチで求人を絞り込むことが出来たら、仕事内容や条件を確認。興味を持てる内容であれば、さらに踏み込んで企業情報を見ていきます。
3.3 企業情報を見る
求人を見つけたら、次は企業について深く理解することが重要です。
どんな情報源を見ればいいか?
応募企業のコーポレートサイトは、基本的な情報が抑えられているので必ずチェックしましょう。
一方で、コーポレートサイトは取引先企業や一般ユーザーなど顧客に向けた情報提供がほとんどで、求職者向けの情報発信がされていないので、情報が分かりづらい場合もあるかと思います。多くの企業はコーポレートサイトとは別に採用サイトを設けており、求職者向けの情報を発信していますので、併せて確認すると、より企業のことを理解でき、働くイメージもつかめると思います。
また、GreenやWantedlyなど、企業と共感できる求職者のマッチングを重視した求人プラットフォームもあり、企業によってはこういった外部プラットフォームでの情報発信に力を入れているので、もし情報があればチェックしましょう。
どんな内容に注目すべきか?
コーポレートサイトの中で特に注目したいのが企業理念や代表挨拶。これらは、その企業が社会の中でどんな立ち位置を目指しているのか、どうありたいのかを示す企業の核心部分。自己分析を通じて自分の目指したい目標が明確になっていれば、企業と自分を照らし合わせて、共感できるポイントも見えてくるかもしれません。
また、併せてチェックしたいのが事業内容。企業理念や代表挨拶を踏まえて事業内容を見ると、理念とビジネスが結び付いているのが分かり、より理解が深まるかもしれません。自分がこれから関わる仕事にも直結する部分なので、必ずチェックしましょう。
さらに理解を深めるには?
企業理念や事業内容を見れば大枠で企業理解はできるかもしれませんが、仕事の詳細や現場で働く社員の顔は見えづらいので、実際に働くイメージは持ちづらい可能性があります。コーポレートサイトだけでは見えづらい入社後のイメージは、採用サイトを見ることで補える場合があります。企業によって内容は様々ですが、社員インタビューや仕事内容の詳細な説明、キャリアステップなど、応募者が気になる部分を説明するコンテンツが掲載されているので、想像していた仕事内容や働き方とのギャップがないかを確認することが出来ます。
より実態を知りたい場合は、企業の口コミサイトから社員の口コミを見てみるのも手段の一つですが、口コミはネガティブな情報が集まりやすい傾向があり、上手く情報を取捨選択しないと偏った・誤った情報を事実誤認してしまう可能性があるので注意が必要です。
3.4 情報が見つからない場合
特に中小企業やスタートアップの場合、コーポレートサイトや採用サイトに情報が十分に記載されていないケースがあります。そんな時は、以下の3つの方法で、対象企業の情報を探してみてください。
同業他社の調査を行う
もし対象企業に関する情報が限られている場合は、同じ業界に属する他の企業を調べることで、業界のトレンドや主要なビジネスモデルが見えてくることがあります。業界全体の課題やニーズ、競争環境を把握したり、同じような業態・規模の他社と比較したりすることができれば、志望する企業がどのようにその中で独自性を発揮しているのか、また自分がその企業でどのような貢献ができるかを考える手がかりになるかもしれません。
また、業界の動向を把握することは、求人企業と同じ視座を持ち課題感などを共有することにも繋がります。志望動機を考える上で役立つだけではなく、学んだ情報をもとに面接の場などで有意義な意見交換を行うことが出来る可能性もあるので、企業情報が充実しているような場合でもぜひトライしてみてください。
社長・経営者のインタビューやSNSをチェック
コーポレートサイトにあまり情報がなくても、業界向けメディアなどのインタビュー記事や、企業の経営者が自ら運用するSNS、ブログなどを通じて、日々の活動や会社の方向性、価値観について発信されている場合があります。これらの情報源をチェックすることで、企業のビジョンや未来に向けた戦略、さらには経営者の人柄や価値観について知ることが可能です。
こういった情報を探すには、求人企業の社長の名前をネットで検索してみましょう。XやThreads、LinkedIn、ブログなどのアカウントがあれば、投稿内容をチェックしておくことで、コーポレートサイトの情報の不足を補える可能性があります。
直接のアプローチ
情報がWeb上にほとんどない場合は、自ら直接アプローチして情報を仕入れる手段も有効です。例えば、転職エージェントを通じて企業の内部情報を聞くのも一つの方法。エージェントは企業と求職者を結びつけるプロであり、企業の求める人材像や社内文化について、より詳細な情報を提供してくれることがあります。また、転職エージェントを介さずとも、応募前に問い合わせフォームやメールを通じて企業に質問することで、カジュアル面談を打診されたり、採用担当者や企業の担当者から直接回答を得ることも可能だったりします。
このような直接的なアプローチは、単に情報を得るだけでなく、積極性をアピールする絶好の機会にもなります。企業側に対して「この人は真剣に企業に興味を持っている」と好印象を与える可能性もあります。
4. 志望動機をより魅力的に表現するには
ここまでの手順で自己分析や企業探しに向き合っていけば、志望動機も自然と湧き上がってくるものがあると思いますが、いざ履歴書などに向き合い言葉にしようとすると、迷いも生じるかもしれません。志望動機を魅力的にするためには、単に「この会社で働きたい」「興味がある」という感情的な動機だけでなく、具体的な事実や実績、そして自分の経験と会社のニーズを結びつけることが重要です。ここでは、志望動機をより魅力的に表現するための3つのテクニックを紹介します。
4.1 具体的なエピソードを交える
自分の過去の経験や実績を取り入れて、志望動機に深みを加えましょう。ただ「貴社の成長戦略に共感しました」というだけではなく、これまでのキャリアの中でどういった経験を積み、どのような成果を上げたのか、その実績を活かしてどう貢献できるかを具体的に説明します。
例:
「前職で5年間、営業として顧客管理システムの導入プロジェクトを主導し、顧客満足度を20%向上させました。貴社のビジネス課題として掲げている顧客ロイヤリティの向上に、同様の経験とスキルを活かして貢献できると確信しています。」
このように、過去の実績と企業のニーズや課題を結びつけることで、具体的な貢献イメージを伝えることができます。
4.2 「なぜこの企業なのか」を明確にする
数多くの企業の中で、なぜその企業を選んだのかを深掘りすることも重要です。単に「大手だから」「業界をリードしているから」ではなく、企業の特定の理念やプロジェクト、または業務内容にどのように共感したのか、自分の価値観やキャリア目標とどのように一致しているのかを伝えることで、説得力が増します。
例:
「貴社の『人材育成を最優先する』という理念に強く共感しています。私自身、前職では新人研修のリーダーを務め、チームの成長支援に携わってきましたが、自分の働き次第で、会社の業績にもメンバーの社会人としての成長にも大きな影響を与えることに責任とやりがいを感じてきました。貴社であれば、人材育成における考えに共感しながら、私のスキルを最大限に発揮できると感じています。」
このように、企業の特徴を深く理解したうえで、自分の経験や価値観との接点を明示しましょう。
4.3 「未来の貢献」を具体化する
志望動機では、自分のこれまでの経験を語るだけでなく、「この企業で何を成し遂げたいのか」という未来のビジョンも重要です。未来のビジョンを語ることで、長期的な視点を持ち、企業とともに成長する意欲が伝わります。企業としては、短期的な穴埋め要因ではなく、将来的な貢献を見込んで採用したいと考えるケースが多いためです。
例:
「貴社での経験を通じて、5年後には営業部門全体のリーダーとしてチームを牽引し、貴社の目指す顧客満足度向上の一端を担いたいと考えています。そのために、まずは現場で顧客のニーズを徹底的に把握し、課題解決に取り組んでいきたいです。」
このように、自分がどのように成長し、どんな目標を達成したいかを明確にすることで、企業に対して魅力的な将来像を提示することができます。
志望動機においては、自分の言葉で本当に「この企業で働きたい」という熱意を伝えることが大切です。面接官はその人の本気度を見抜く力を持っています。飾らず、自然な気持ちでその企業に対する思いを伝えることで、より印象深い志望動機となるでしょう。
志望動機において、ただ形式的にまとめるのではなく、自分の言葉で本当に「この企業で働きたい」という熱意を伝えることも大切です。面接官はその人の本気度を見抜く力を持っています。飾らず、自然な気持ちでその企業に対する思いを伝えることで、より印象深い志望動機となるでしょう。
ここまでの内容をもとに、志望動機を考えてみて、もしそれでも不安があるようであれば、信頼できる知人や転職エージェントに相談してみて、客観的なアドバイスを受けてみましょう。
5. まとめ
志望動機は、応募企業に合わせて無理に捻り出すものではありません。大切なのは、自己分析を通じて「自分がどうありたいか、どうなりたいか」を明確にし、そのビジョンを実現できる企業を選ぶことです。そうすることで、志望動機は自然と心の中から湧き上がってくるでしょう。まずはしっかりと自分自身と向き合い、自分の進むべき方向を見定めてください。そうすれば、自分らしいキャリアを築ける企業と巡り合えるはずです。あなたが「ここで頑張りたい」と思える仕事に出会えることを心から願っています。