転職が以前よりも一般的なキャリアの選択肢として浸透している昨今。成長業界への参入や働き方の改善を希望し「異業種への転職」を検討する人は少なくありません。しかし、未経験の分野に挑戦するとなると、その不安は大きいものです。「本当に成功するのか?」「転職後、ちゃんと働き続けられるのか?」と自問する方も多いのではないでしょうか。
この記事では、異業種転職を目指す方々に向けて、成功のポイントや注意すべき点をお伝え。また、実際に異業種への転職に成功した事例をご紹介することで、成功するための道筋を示し、あなたが自信を持って次のステップを踏み出せるようサポートします。
目次
1. 異業種転職の市場データと現状
実際に異業種への転職をする人はどれくらいいるのでしょうか?ここでは、具体的なデータをもとに、異業種への転職がどれくらい一般的なものなのかを見てみましょう。
1-1. 異業種転職者が増えている現状
昨今の転職市場では、異業種転職を希望する求職者が急増しています。株式会社リクルートの調査によると、転職者全体に占める異業種転職者の割合は年々上昇傾向にあり、特にここ数年で大きく伸びています。
参考:「異業種×異職種」転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた「越境転職」が加速‐株式会社リクルート(recruit.co.jp)
企業側の採用姿勢においても、以前は同業種での経験を重視する傾向が強かったものの、近年では異業種からの転職者にも間口を開き受け入れる企業が増加。人口労働減少の加速を受け、異業種経験者の採用に前向きな企業も増えています。
1-2. 異業種転職が増加している背景
この異業種転職増加の背景には、下記のような要因があります:
- 労働人口の減少:
日本の総人口および労働人口は少子高齢化により減少傾向にあります。そのため、特定の業界だけでなく、幅広い分野から人材を確保する必要性が高まっており、異業種からの転職者を積極的に受け入れる動きが広がっています。 - ジョブ型雇用への移行:
日本では終身雇用を前提に、1社の中でキャリア形成を行っていく「メンバーシップ型雇用」が主流でしたが、近年は職務内容を明確化した「ジョブ型雇用」に移行する企業が増えています。それにより、スキルや経験次第で業界や職種を超えた転職がしやすくなりつつあります。 - ダイバーシティ経営への取り組み:
多様な人材を活用し、組織の競争力を高める「ダイバーシティ経営」が注目されており、その一環として、異業種からの転職者を受け入れる企業が増えています。さまざまな業界での経験やスキルを持つ人材を活用することで、組織内に新しい価値や視点を取り入れることが狙いです。
社会環境の変化を背景に、企業も往来の採用の在り方に捉われず、様々な試みを行い組織強化を図っています。
2. 異業種転職を目指す理由
異業種への転職を目指す理由は人によって様々です。ここではその主な理由をご紹介。自身のケースに当てはめながら考えてみて、自身の転職活動の参考にしてみてください。
2-1. 業界の安定性や成長性
異業種転職を決意する最も一般的な理由の一つが、業界の将来性です。現在の業界に対して将来的な不安を感じる人や、より成長性の高い業界でキャリアを築きたいと考える人が増えています。
特に注目を集めているのが、IT業界やヘルスケア業界といった成長産業です。これらの業界は、社会のデジタル化や高齢化といった大きなトレンドを背景に、今後も安定した成長が期待されています。また、グリーンテクノロジーや再生可能エネルギーといった、環境関連の新興産業も、将来性という観点から注目を集めています。
成長産業においては企業の成長率も高い傾向にあり安定性が望めるだけではなく、新規事業の立ち上げや事業拡大といった会社の重要フェーズに関わるチャンスがあることも魅力となります。一方で業界内の競争率も高く、入社後も自主的な成長努力を求められる傾向があります。
2-2. 自分の興味・関心への挑戦
「やりたいことを見つけた」「自分の興味のある分野で働きたい」という理由で異業種転職を目指す人も少なくありません。特に、仕事経験を重ねる中で自分の本当の興味や適性に気づき、思い切って異業種への転職を決意するケースが増えています。たとえば、営業職として培った対人スキルを活かしながら、より社会貢献度の高い医療機器の販売に転身したいと考える人や、製造業での品質管理経験を活かして、食品業界で安全・安心な製品づくりに携わりたいと考える人などがいます。
興味・関心に基づいた転職の場合、多くの人が同様に希望することで応募倍率が高く、競争が激しくなる傾向があります。具体的に転職活動を行う前から自主的に興味・関心分野について知見やスキルを磨いておくことも重要です。
2-3. 働き方や収入の改善
働き方の改善を求めて異業種転職を選択する人も増えています。長時間労働が常態化している業界から、ワークライフバランスの取りやすい業界への転職を目指すケースや、より柔軟な働き方が可能な業界を選ぶケースなどです。
また、収入面での改善を求めて異業種転職を考える人も少なくありません。ただし、異業種転職の場合、最初は未経験者として扱われる可能性が高く、一時的な収入減少を覚悟する必要がある場合もあります。中長期的なキャリアプランの中で、収入面での改善を目指すことが重要です。
3. 異業種への転職を実現させるための4つのポイント
未経験分野における転職を実現するには、どのようなことを心がけるべきか。ここでは、異業種への転職を成功させるための4つのポイントを解説します。
3-1. 自分の「ポータブルスキル」を見つける
異業種転職で最も重要なのが、「ポータブルスキル」の把握と活用です。ポータブルスキルとは、業界や職種を問わず転用可能な汎用的なスキルのことを指します。具体的には以下のようなスキルが該当します:
- コミュニケーション能力(社内外の関係者との折衝、プレゼンテーション)
- プロジェクトマネジメント能力(計画立案、進捗管理、リスク管理)
- 問題解決能力(課題の特定、原因分析、解決策の立案・実行)
- 論理的思考力(データ分析、戦略立案)
- リーダーシップ(チームマネジメント、メンバーの育成)
これらのスキルは、どの業界でも普遍的な価値を持ちます。異業種転職の際は、自身の経験の中からこうしたポータブルスキルを見出し、具体的なエピソードと共に整理しておくことが重要です。また、これらのスキルが異業種のどのような仕事で活かせるかを柔軟な発想でイメージすることで、転職の選択肢は大きく広がります。
参考:「転職したいけどスキルがない」という方必見!自分の強みを見つけ道を切り開く方法!‐とこキャリ(tokon.co.jp)
3-2. 自身の価値観を明確にする
「なぜ、この企業に転職するのか?」これは同業内での転職でも必ず問われる重要な質問ですが、異業種への転職では特に重視されます。なぜなら、企業は応募者に対して長期的な就業と活躍を期待しているからです。異業種への転職の場合、これまでの経験やスキルを活かしつつも、業界や職種の違いを乗り越えて活躍できるかどうかが非常に重要になります。
企業がその人が長期的に活躍できるかを見極めるためには、単に「その業界に興味がある」という理由だけでは不十分。重要なのは、その業界や企業のカルチャーと自分自身の価値観が一致することです。応募者が自社の文化にフィットし、長期的にモチベーションを維持できるかどうかを企業は見ています。そのため、転職希望者自身が自分の価値観を明確にし、それが応募先企業の価値観やビジョンに合致することを示すことが、成功する転職のカギとなります。
参考:転職の「軸」って何??仕事探しに必要な4つの視点をわかりやすく解説!‐とこキャリ(tokon.co.jp)
ポータブルスキルや価値観は、自分の中で「あたりまえ」のものとして備わっている場合が多く、意外と自覚しづらい要素です。自分を客観的に見直してポータブルスキルや価値観を明確にするために、転職エージェントに相談するなど、第三者の視点を取り入れてみるのも有効な手段の一つです。
4. 異業種転職の注意点
キャリアの選択肢として一般的になりつつある異業種への転職ですが、馴染みのない世界に0から飛び込むにあたっては当然注意も必要です。ここでは、異業種への転職で注意するべき点を開設します。
4-1. 異業種転職のメリット・デメリット
異業種転職には、以下のようなメリットとデメリットがあります:
【メリット】
- 新しい知識やスキルを習得できる機会が得られる:
新たな業界で多くのことを学ぶことで、自己成長を実感できます。業界固有のスキルや知識に触れることは、キャリアにとって貴重な経験となります。 - 異なる視点や発想を活かせる可能性がある:
自分がこれまで当たり前だと思っていた知識やスキルが、新しい職場では新鮮にうつり、重宝されることがあります。異業種ならではのフレッシュな視点を活かして、第一人者として活躍するチャンスが広がります。 - キャリアの幅が広がり、将来的な選択肢が増える:
業界を超えた知見やスキルを身につけることで、より多くの選択肢を得られます。ポータブルスキルとともに広範な専門知識を活かし、あらゆるフィールドで活躍することが可能になります。 - 成長産業へのキャリアチェンジが可能:
新たな成長産業に転職することで、将来性のある分野でのキャリアを築くチャンスが広がります。特に今後の成長が期待される業界に身を投じることは、キャリアアップに繋がります。
【デメリット】
- 初期段階での給与低下の可能性:
異業種に転職する際、新しい業界で経験を積む必要があるため、最初はこれまでの経験値に応じた報酬を得られないことがあります。しかし、将来的な給与向上の可能性も見据えながら転職を検討する必要があります。 - 業界特有の知識習得に時間がかかる:
新しい業界では、業界特有の用語や業務フローを覚える必要があり、その習得には時間がかかることがあります。慣れるまで苦労する可能性も高いため、覚悟が必要です。 - 社内での立場が一時的に不安定になることも:
異業種転職では、前職での経験や実績がそのまま活かせるわけではないため、最初は社内での立場が不安定になることがあります。新しい業界で信頼を築くには時間が必要で、周囲からの評価が確立するまで、プレッシャーを感じることもあります。 - 文化や習慣の違いへの適応が必要:
異業種に限らず、転職後の企業文化や習慣は、前職と大きく異なることがあります。新しい職場に適応するためには、文化の違いに感じるストレスを受け入れ、柔軟に対応し、円滑なコミュニケーションを図る必要があります。
これらのメリット・デメリットは転職前に把握しておく必要があります。
4-2. 業種によっては採用ハードルが高い
異業種への転職が一般的になりつつあるとはいえ、すべての業界で柔軟な受け入れが行われているわけではありません。あくまで傾向ですが、一般的に異業種から転職しやすい業種、転職しづらい業種には以下のような特徴があります:
【比較的転職しやすい業界】
- IT・デジタル関連(特にSaaS営業など、ビジネス寄りの職種)
- サービス業(特に接客や営業経験が活かせる職種)
- 人材・教育関連(コミュニケーション能力重視)
市場の成長・変化が激しいことや、専門的なスキルよりもポータブルスキルが重視される傾向にあることから、これらの業種では比較的業界未経験の人材でも転職しやすい傾向があります。
【参入ハードルが比較的高い業界】
- 金融(専門知識や資格が必要)
- 医療・製薬(専門資格や知識が必須)
- マスメディア業界(業界特化のスキルや業界文化への理解、人脈が重視される)
専門領域での知見・スキルや、業界慣習への理解が必要になることから、これらの業種では業界未経験者の受け入れに消極的な傾向があります。
また、業界によって求人数や参入希望者数にも違いがあり、それも転職に対するハードルを上げる要因となることもあります。異業種への転職を行う際は、こういった市場環境をある程度理解した上で、自分が希望する転職が現実的な選択肢かどうか把握しましょう。
4-3. 環境や文化の変化に順応する覚悟
異業種転職では、業務内容の違いだけでなく、企業文化や仕事の進め方の違いにも適応する必要があります。以下のような点で大きな違いを感じることがあります:
- 意思決定のスピードや方法:
意思決定のスピードやその過程は、業界や企業によって大きく異なります。意思決定が迅速でフレキシブルな業界もあれば、慎重で合意形成が重視される業界もあります。 - コミュニケーションスタイル:
たとえば、ある業界では上司との対話が重視される一方、別の業界では自発的な意思表示やチーム内での密な連携が求められるなど、コミュニケーションの在り方は業界、企業によって様々です。 - 評価基準や成果の測り方:
仕事の成果やパフォーマンスがどのように評価されるかは企業や業界によって異なります。例えば、売上や利益が重視される業界と、プロセスやチームワークが評価される業界では、成果の測り方や評価基準が大きく異なります。 - 働き方や勤務時間の考え方:
業界によって、働き方や勤務時間に対する考え方が大きく異なります。例えば、クリエイティブ業界ではフレックスタイムやリモートワークも普及しつつありますが、製造業や金融業では、より厳格な勤務時間が求められることもあります。
転職にはカルチャーショックがつきもの。前職とのギャップを受け入れる覚悟と、これらの違いに柔軟に対応できる姿勢、新しい環境で学び続ける意欲を持つことが重要です。
5. 異業種転職の成功事例
ここでは、異業種の転職を成功させた2名のエピソードをご紹介します。転職の事情や状況は個々で違うので、すべてを参考にすることは難しいかもしれませんが、転職を考える上でのヒントとして活用してみてください。
5-1. 小売店のフランチャイズサポートから、医療メーカーの代理店営業へ
Aさんは、大手小売業でフランチャイズのサポート業務に従事していました。経営に携わってみたいという興味から新卒でこの業界に入り、地域のフランチャイズオーナーのサポートを担当。その中で、地域への貢献に強い想いを持って取り組む経営者たちの姿に感銘を受け、自身も地域に対してより直接的に貢献できる仕事に携わりたいと感じるようになり、転職を決意します。
そんな中エージェントの紹介を通じて、医療系メーカーの代理店向け営業のお仕事に興味を持ちました。ちょうどAさんが住んでいたエリアを担当する営業職の募集を行っており、地域に根付いた仕事ができることに魅力を感じ応募。営業は未経験だったものの、フランチャイズオーナへの経営サポートで培った外部との協力体制を築く密なコミュニケーションスタイルが高く評価され、異業種にも関わらず内定を獲得。社会貢献意識を強く持つ企業の理念にも強く共感し、転職を決意しました。
現在は、小売業で培った経営者との対話力や提案力をもとに、代理店とも密接な協力関係を築き活躍しています。
5-2. 建材商社の法人営業から化学用品メーカーの物流管理への転職へ
Bさんは、建材商社で法人営業として2年間勤務。もともとコミュニケーションに苦手意識があり、それを克服するために営業職を選択しました。徐々に成果を上げられるようになり、コミュニケーションへの苦手意識も克服。しかし、建設業界特有の商習慣や営業スタイルが自身の性格と合わないと感じ、転職を検討することに。
そんな中、転職エージェントから紹介されたのが、老舗メーカーの物流管理職。学生時代、運動部でチーム競技没頭してきたBさんは、チームワークを重視する同社の風土や、体を動かすことが多い倉庫業務に強い適性を感じ、転職を決意。協調性溢れる社風の中でコミュニケーションの緊張感に捉われることなく、自分らしさを活かしながら活躍しています。
異業種転職は自分の価値観や適性を再発見し、新たなキャリアを築くための大きなステップです。自身の強みをどのように活かし、次のステージで成功を収めるか、しっかりと見極めることが大切です。
6. まとめ
異業種転職は挑戦であり、大きな成長のチャンスでもあります。自分のこれまでの経験やスキルをどう活かすか、また新たな業界でどのように貢献できるかをしっかりと見極めることが成功への鍵です。あなたの新しいキャリアが素晴らしいものになることを心から応援しています。転職はゴールではなく、新しい挑戦へのスタートです。自信を持って、前向きに進んでいきましょう。