転職活動や就職活動をしていると、「営業」と「セールス」という言葉を目にする機会はありませんか?「“営業”の仕事を探しているのに、“セールス”という言葉ばかり見かける」と、戸惑いを感じたことのある方もいるかもしれません。もしかしたら、「営業は泥臭そう」「セールスは押し売りの印象が強い」といったように、それぞれの言葉に持たれがちなネガティブな印象に引っ張られ、キャリアの選択肢を狭めてしまっている人もいるのではないでしょうか?

しかし、実はこの2つの言葉には明確な違いはありません。「営業」も「セールス」も同じ意味合いで使われることがほとんどです。
大切なのは、言葉の印象に囚われず、求人ごとの仕事の違いや特色を見極めること。その上で、その仕事が自分に合っているかどうかを検証することが、キャリアを考える上でより重要なことです。

この記事では、「営業」や「セールス」という言葉の印象がどのように形づくられてきたのかを丁寧にひもときながら、現代のビジネスシーンでその言葉がどのように使われているのかを整理していきます。
また、「自分はどんな役割を担いたいのか」「どんな働き方が合っているのか」を見つめ直すヒントをお届け。「営業」「セールス」に興味を持つあなたのキャリア形成をサポートします。

目次

1. 「営業」と「セールス」──言葉の歴史的背景と変化

「営業」や「セールス」から伝わる印象はどのように形成されてきたのか?まずそれぞれの言葉がどのような背景で使われるようになったかを見てみましょう。実は、これらの言葉は時代と共に意味合いが大きく変化してきました。そして、かつては明確に異なるイメージを持っていた2つの言葉が、現在ではその境界線が曖昧になっています。言葉の変遷を追うことで、現在の職場環境や求められる役割の変化も見えてきます。

1-1. かつての「営業」:人と人との関係を軸にした信頼構築型の仕事

日本における「営業」という言葉は、昭和の高度経済成長期を背景に広く使われるようになりました。元々は商店の外回りや「御用聞き」から始まり、法人向けのルート営業や訪問営業を通じて、長期的な関係性を築くスタイルが主流でした。単にモノを売るだけでなく、人間関係の構築や信頼をベースにした商談が重視され、個人の経験やノウハウに依存する属人的な仕事として認識されていたのが特徴です。そのため、営業のやり方や成果は人によって大きく異なり、「営業は人なり」という言葉も生まれました。

営業という仕事のより詳しい歴史については、以下の記事も参考になります。
※参考:歴史で読み解くセールスの軌跡-Salesforce(salseforce.com)

1-2. かつての「セールス」:販売という行為にフォーカスされた職種名としての使われ方

「セールス」という言葉は、本来は英語圏で「販売活動」全般を指す中立的な言葉です。提案、クロージング、契約といったプロセスを含む広い意味合いを持っています。しかし日本においては、生命保険や訪問販売、不動産販売など、短期で成果が求められる個人向け営業の文脈で「セールス」という言葉が多く使われ、ときに「数字至上主義」「売り込み型」といった印象を持たれることもありました。「セールス」という言葉に、仕事の実態とは別に、ネガティブなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。

実際に、営業支援ツールを開発する"株式会社Sales Marker"が就活生に行った「セールス」の印象調査では、「ノルマが厳しい」「無理な営業をさせられそう」といった理由から、46.8%がネガティブな印象を持つと回答し、ポジティブな印象(41.2%)を上回る結果となりました。

※参考:就活シーズン本格化!25卒のZ世代就活生対象「セールス」へのイメージ調査―PR TIMES(prtimes.jp)

1-3. 変わってきた現代:セールス=グローバル標準、チームで価値を届ける役割に

しかし、外資系企業やIT・SaaS業界の成長と共に、「セールス」という言葉が再定義され始めています。現代のセールスは単なる販売ではなく、顧客の課題を深く理解し、価値ある解決策をチームで提供する「ソリューション営業」の意味合いが強くなりました。とりわけ、SaaS業界を中心に注目されているのが「The Model(ザ・モデル)」と呼ばれる営業組織の考え方です。インサイドセールス(リード獲得)、フィールドセールス(商談)、カスタマーサクセス(契約後支援)といった職能を分業・連携させることで、営業活動を再現可能なプロセスとして設計し、チームで成果を最大化する仕組みが構築されています。

こうした動きの中で、グローバル標準としての「セールス」は、もはや「売る人」ではなく「顧客と一緒に価値を創造する人」という捉え方に変化しており、従来の営業とセールスの境界線は曖昧になってきています。

※参考:The Model(ザ・モデル)とは?用語と営業プロセスをSalesforceが解説―Salesforce(salseforce.com)

2. 「営業」に求められる役割とは?

営業職に求められる役割は業界や企業によっても変わりますが、その業務範囲は非常に多岐にわたります。営業は単に商品を売るだけでなく、顧客との最前線に立ち、社内外の様々な関係者をまとめながらプロジェクトを推進する重要な役割を担うことが多いです。ここでは、現代の営業職が担う3つの主要な役割について詳しく見ていきましょう。

2-1. 顧客との関係構築・信頼醸成のフロントライン

営業職は顧客と最初に接するだけでなく、長期的な関係性を築く「フロント」としての重要な役割を果たします。相手のニーズを的確にくみ取る力、信頼を得る適切な言葉選び、商談のリズム感など、対人関係の機微を理解する能力が求められます。単に商品の機能を説明するのではなく、顧客の組織や業界背景を深く理解した上で最適な提案につなげる関係構築力が必要です。特に日系企業では長期取引や人間関係を重視する文化が根強く、営業が信頼構築の「顔」となることで、企業全体の信頼性を左右する重要なポジションとなっています。

2-2. プロジェクトのハブとしての責任感と調整力

営業は「売る人」であると同時に、社内外の関係者を巻き込む「調整役」「推進役」としての力も求められます。技術部門、カスタマーサポート、商品企画などと連携しながら、案件を具体化・実現する「橋渡し」の存在として機能する必要があります。顧客と社内の板挟みになる場面も多く、利害調整や納期管理、継続的なフォローアップなど、プロジェクト全体を前に進める強い責任感が不可欠です。特に法人営業では1件の契約が長期間に及ぶことも多く、営業が「プロジェクトマネージャー的存在」として全体をコーディネートする役割を担うことも珍しくありません。

2-3. 個人に裁量が大きく任される仕事の重み

「営業」という職種は、属人的なスキルに依存しがちな一面もあり、個人の判断力や提案力、スケジュール管理などの総合的なビジネス力が問われます。一方で、現場に大きな裁量が与えられやすく、自分なりのやり方で顧客との関係性を築ける自由度もあるのが特徴です。成果が数字として見えやすい分、評価されるチャンスも多い反面、その分大きなプレッシャーも伴います。仕事のやり方が型化されていない組織では、「自分なりの営業スタイル」を確立する必要があり、これは大きな成長機会と自走力が求められる環境でもあります。このような特性から、営業職は極めて総合的なビジネス力が求められる専門職と言えるでしょう。

3. 「セールス」という言葉が示す現代的な役割

現代において「セールス」という言葉が注目されている背景には、ビジネスモデルの大きな変化があります。従来の売り切り型から、いわゆる「サブスク」のような定期契約型へのシフト、そしてチーム体制による営業活動の組織化が進んでいます。ここでは、現代のセールス職が担う役割と、その背景にある構造的な変化を詳しく見ていきましょう。

3-1. SaaSなど定期契約型ビジネスの中核

セールスという言葉が再注目されている最大の背景は、SaaS(Software as a Service)などの定期契約型ビジネスモデルの普及にあります。従来の売り切り型とは異なり、継続的にサービスを利用してもらうことがビジネスの成否を左右するため、「契約を取るだけ」では不十分です。導入後も顧客が成果を実感し、長期的に利用し続けてもらえるような提案・設計が求められます。そのため現代のセールスは、顧客の業務を深く理解し、成功までの道筋を設計し、導入後の活用支援まで見据えた総合的なアプローチが必要となっており、企業の成長を大きく左右する戦略的なポジションとして位置づけられています。

3-2. インサイド/フィールド/カスタマーサクセスとの連携

現代のセールスは、一人の営業担当者がすべてを担うのではなく、役割分担されたチーム体制で機能することが一般的になっています。インサイドセールスが見込み客の選定・育成(リード獲得)を行い、フィールドセールスが商談・クロージングを担当し、カスタマーサクセスが契約後の顧客支援・継続利用の促進を行うという分業体制です。それぞれが専門性を発揮しつつも密に連携することで、一人では実現できない高度な価値提供や成果創出が可能になります。「セールスはチームスポーツ」とも言われるように、個人プレーよりも再現性と協働性を重視する文化が現代のセールス組織の大きな特徴となっています。

3-3. 再現性ある仕組み化と、チームで成果を出すスタイル

現代のセールスには、「属人化を排除し、仕組みとして成果を再現できるか」という視点が重視されています。データを活用して営業活動を可視化し、成果の出るトークや提案の型をチーム全体で共有・改善していくアプローチが主流です。CRM/SFA(営業支援ツール)などの活用が前提となっており、「感覚」や「経験」よりも「戦略」や「プロセス設計」の精度が問われる環境です。個人の営業力に依存するのではなく、「チームとして継続的に成果を出す」ことに重きを置く働き方が、現代の「セールス」という言葉に込められた本質的な意味合いとなっています。この変化により、従来の営業とは異なる新しい職種として「セールス」が確立されつつあります。

4. あなたが担いたい役割は?

ここまで「営業」や「セールス」という言葉の移り変わりを見てきましたが、最も重要なのは言葉の区別ではありません。本当に大切なのは、あなた自身が「どんな働き方をしたいのか」「どんな価値を発揮したいのか」という視点です。職種名にとらわれることなく、自分の強み・志向・キャリアビジョンに基づいて目指す方向を明確にすることで、より満足度の高いキャリア選択が可能になります。ここでは、自分らしい働き方を見つけるための3つの視点をお伝えします。

4-1. 提案力、企画力、推進力──どんな強みを活かしたい?

営業でもセールスでも、求められるスキルは多岐にわたりますが、それぞれに求められる「色合い」があります。提案力が強みなら、顧客課題を整理し最適な解決策を導くコンサル型の営業やソリューションセールスに適性があるでしょう。企画力が強みなら、商品企画・マーケティングとの連携や、顧客の声を事業に反映する橋渡し役として力を発揮できます。推進力が強みなら、プロジェクトを前に進める調整力や、チームで成果を出すスタイルが求められる環境がマッチするはずです。重要なのは「どの言葉の職種に就くか」ではなく、「どんな強みを軸に価値を出したいか」という自分起点の考え方です。

4-2. 「仕事の名前」ではなく「仕事の中身」でキャリアを考える

「営業」「セールス」という呼称だけでは、実際の業務内容を正確に判断することはできません。たとえば「営業」と呼ばれていても、提案書作成やプロジェクト推進がメインの戦略的な仕事かもしれませんし、「セールス」と呼ばれていても、定型的な商談や決まった提案が主という場合もあります。だからこそ、キャリアを考える際に見るべきは、仕事の「名前」ではなく「中身・ミッション・責任範囲」なのです。ラベルに惑わされることなく、自分が日々どんな価値を届けたいか、何に力を注ぎたいかにフォーカスすることで、本当に自分に合った環境を見つけることができます。

4-3. 自己理解を起点に「目指す姿」と「企業の期待」が重なるところを探す

キャリアの充実は、「自分がなりたい姿」と「企業が求める役割」が重なるところで最も実現しやすくなります。まずは「自分が将来的にどうなりたいか」「どんな場面で力を発揮したいか」を自己理解の視点で具体的に言語化することから始めましょう。そのうえで、企業の募集要項や求める人物像、組織構造と照らし合わせて、マッチする環境を見極めていく視点が重要です。名前や制度ではなく、「そこでどんな経験ができ、どう成長できるか」を軸に選ぶことが、主体的で満足度の高いキャリア形成につながります。自分の価値観と企業の期待値が重なる部分を見つけることで、長期的に活躍できる環境を選択できるでしょう。

5. 言葉ではなく、実態を見るキャリアの選び方

「営業 or セールス」といった言葉の違いにとらわれて企業を選ぶのではなく、実際の個々の企業における仕事内容や組織での役割、求められる成果の実態を見て判断することが重要です。同じ職種名でも企業によって業務内容は大きく異なるため、表面的な名称ではなく本質を見極める姿勢が求められます。ここでは、実態を正しく把握し、自分に合った環境を選ぶための具体的な方法をお伝えします。

5-1. 企業ごとの役割設計・期待値をどう見極めるか

同じ「セールス」でも、ある企業では提案型営業、別の企業ではアポ取り中心といったように、業務の中身は企業によって全く異なります。重要なのは「どんな成果を期待されているか」「誰と連携してどこまで責任を持つか」といった役割設計を正確に読み取ることです。数値目標だけなのか、顧客満足やLTV(顧客生涯価値)も指標に含まれるのか、チームで動くのか個人商談スタイルなのかなど、具体的な働き方を確認する必要があります。名称に惑わされることなく、「なぜその職種名が選ばれているか」も含めて、言葉の背景にある企業の価値観や事業戦略を読み解くことが、正しい判断の鍵となります。

5-2. 面接・募集要項・社員インタビューでチェックすべき観点

実態を把握するためには、積極的な情報収集が不可欠です。募集要項に記載された「ミッション」や「成果指標」を詳しく確認し、面接では1日のスケジュール例、関わる部署、売上以外で評価される要素について具体的に質問しましょう。社員インタビューや座談会では、実際に働く人の「言葉遣い」や「表情」に注目することで、その企業の価値観や営業スタイルを感じ取ることができます。「どんな言葉で職種を表現しているか」だけでなく、その言葉がどのように実際の働き方に結びついているかを確認することで、入社後のギャップを最小限に抑えることができるでしょう。

5-3. 「言葉の違い」に惑わされず、自分のキャリア軸で選ぶことの大切さ

キャリア選択で最も大切なのは、「セールス」か「営業」かではなく、自分の価値観・働き方・目指す姿に合っているかどうかです。「数字で成果を実感したい」「チームで課題を解くのが好き」「お客さんの顔が見える仕事がしたい」といった自分なりの軸に沿って判断すれば、職種名の違いはさほど重要な要素ではなくなります。仕事選びの本質は、自分の意思と働き方の相性を見極めることであり、言葉はあくまでそのヒントに過ぎません。自分のキャリア軸がしっかりと定まっていれば、どんな名前の職種であっても、本当に自分らしく活躍できる環境を見つけることができるはずです。

6. まとめ

「営業」と「セールス」という言葉の歴史的背景から現代的な役割まで詳しく見てきました。それぞれ異なるイメージを持っていた2つの言葉も、ビジネス環境の変化と共にその境界線は曖昧になっています。重要なのは、言葉の違いにとらわれるのではなく、自分がどんな価値を発揮したいかという軸でキャリアを考えることです。

キャリア選択においては、職種名ではなく実際の仕事内容や企業の期待値を正確に把握することが大切です。自分の強み・価値観・目指す姿を明確にした上で、それらが企業の求める役割と重なる環境を選ぶことで、長期的に満足度の高いキャリアを築くことができるでしょう。言葉に振り回されることなく、自分らしい働き方を見つけていってください。