「人事になるにはどうすればいいのか?」――この記事をご覧の方は、人事という仕事に関心を持ち、キャリアチェンジを検討しているのではないでしょうか。

人事を目指す方法は一つではありません。転職で新しい環境に飛び込む道もあれば、社内異動で経験を積むケースもあります。あるいは、人材業界などの周辺領域からキャリアをつなぐやり方もあるでしょう。

ただし、人事の仕事といって思い浮かべるものは何でしょうか。例えば想像しているのが採用や教育といったものだけであれば、実はそれはごく一部にすぎません。他にも、労務や人事制度設計など人事の業務は幅広く、且つ企業によって役割の形もさまざま。どんな動機で人事を志すのか、どんな人事像を思い描いているのかを整理しておかないと、思い描いたキャリアとのギャップに直面するかもしれません。

そこで本記事では、人事の仕事内容や企業による違いを解説するとともに、未経験から人事を目指すための方法をご紹介します。あわせて、「なぜ人事なのか」という自分の思いを整理するヒントも提示し、納得感を持ってキャリアを選べるようサポートしていきます。

目次

1. 人事の仕事とは?――具体的な内容、求められるスキル、キャリアパスを解説

人事と一言にいっても、その仕事内容は多岐に渡ります。仕事の領域や求められるスキル、将来のキャリアパスを把握していないと、自分の目指す人事像とギャップが生じてしまう可能性があります。まずは人事とはどういう仕事なのか、概要を把握して、自分の希望と照らし合わせてみましょう。

初めて人事にチャレンジする場合、任される可能性のある仕事としては大きく4つの領域があげられます。それぞれ異なるスキルとキャリアパスが存在します。

1-1. 人事の仕事内容①:採用業務(候補者対応・面接調整など)

採用業務は人事の中でも最も外向きで、会社の顔として機能する重要な仕事です。求人媒体の運用から始まり、応募者との電話やメール対応、面接日程の調整、内定者のフォローアップ、さらには採用広報活動まで幅広い業務を担当します。この仕事では特にコミュニケーション力と調整力・交渉力が重要で、多くの関係者との信頼関係を築く力が求められます。また、求職者に対して自社の魅力を発信するという点では、マーケティング能力も求められるお仕事です。採用担当として経験を積んでいくと、リクルーターや採用広報担当など、採用における専門職としての道が開けます。

1-2. 人事の仕事内容②:労務業務(勤怠・給与・社会保険管理など)

労務業務は従業員の働く環境を支える、まさに縁の下の力持ちとも言える重要な仕事です。勤怠管理システムの運用、給与計算、社会保険の手続き、就業規則の整備、労務トラブルへの対応など、法的な知識と正確性が特に重要な領域となります。この仕事では労働基準法や社会保険法などの法的知識、給与数値や個人情報を正しく扱う正確性に加えて、機密情報を扱うための高い倫理観と守秘義務への意識が求められます。専門性を深めることで、労務管理のプロフェッショナルや社会保険労務士、コンプライアンス部門の担当者としてのキャリアを積むことが可能です。

1-3. 人事の仕事内容③:教育・研修業務(新人研修・人材育成など)

教育・研修業務は社員の成長を直接支援する、やりがいの大きい仕事の一つです。新人研修や管理職研修などの階層別研修の企画・運営、外部研修会社・講師との調整、研修効果の測定と改善提案などが主な業務となります。この領域では、自身が講師を担うとなればファシリテーション力や研修設計の企画力が重要です。また外部のリソースを活用する場合は、社内外の人を巻き込み実行する推進力や折衝力が不可欠です。共通するのは人を育てることへの情熱です。キャリアとしては人材開発担当、企業内研修講師、組織開発コンサルタントなど、教育分野での専門性を活かした道が広がっています。

1-4. 人事の仕事内容④:組織開発・制度設計(評価制度・人材データ活用など)

組織開発・制度設計は人事の中でも最も戦略的で、経営に近い視点が求められる仕事です。人事評価制度や賃金制度の設計、従業員サーベイの分析、組織改善施策の立案などを通じて、会社全体のパフォーマンス向上に貢献します。この業務では論理的思考力とデータ分析力が特に重要で、経営視点で物事を捉える能力や、制度設計への深い興味も必要になります。将来的には組織開発の専門家、人事マネージャー、経営企画部門、HRBP(戦略人事)などの上級職へのキャリアアップが期待できる領域です。

このように、一言に「人事」と言っても、その仕事内容は様々であり、業務内容によって求められるスキルも変わってきます。また、次のセクションで解説するように、人事の担当領域は企業によっても様々です。そのため、自分が目指す人事像を明確にした上で、自分がどの領域に興味を持つのかを見極めることが、充実したキャリアを築く鍵となるでしょう。

2. 企業によって異なる人事像

人事の役割は一律ではなく、企業の規模や戦略によって大きく変わります。たとえば、小規模では幅広く兼務する傾向があり、大規模では専門分化が進むなど、置かれた環境によって求められるスキルや経験は異なります。ここでは一般的な傾向を整理しながら、自分がどのような環境で働きたいのかを考えるヒントにしてみましょう。

2-1. 企業規模による違い(兼務型か、分業型か?)

企業規模によって人事の働き方は大きく異なります。

小規模の企業では、人事担当者が採用から労務、教育まで幅広く担当するケースや、人事機能が総務や経理と一体化しているケースが多く見られます。たとえば、給与計算は経理が担当、勤怠管理や就業規則の運用は総務が担当するなど、その切り分け方は会社によってさまざまです。こういった環境では、幅広い経験柔軟に積めてゼネラリストとしての力を磨くことができますが、反面、一つ一つの業務に対して専門性を深めることが難しい傾向があります。

一方、中規模から大規模企業では採用・労務・研修・制度設計などが分業化されているケースが多いです。企業規模が大きくなると、一つの領域に専任で関わる上に、大規模な人事施策に携われる機会もあり、専門性を深めることができます。一方で、担当領域が限定されるため、幅広い経験は積みにくい傾向にあります。

どちらが良いかは個人のキャリア志向によって決まるため、自分がゼネラリストを目指すか、スペシャリストを目指すかを考えて選択することが大切です。

2-2. 組織戦略による違い(採用強化/育成重視/制度改革フェーズ)

企業が置かれているフェーズや経営戦略によっても、人事に求められる役割は大きく変わります。採用強化フェーズの企業では新卒・中途採用を強化するため、リクルーターや採用広報などの役割が中心となり、採用のプロフェッショナルとしてのスキルを磨くことができます。育成重視フェーズの企業では教育研修や人材開発に注力するため、研修企画や人材育成プログラム設計が主な仕事となり、教育分野での専門性を高められます。制度改革・変革フェーズの企業では評価制度の刷新や人材データ活用、組織開発が求められ、経営層に近い視点で仕事をするケースも多くなります。同じ「人事」でも企業のフェーズによって、やるべきことも伸ばせるスキルも大きく変わるため、自分がどんな経験を積みたいかと企業の状況をマッチングさせることが重要です。

3. 未経験から人事になる4つのルート

「人事は経験者じゃないと難しいのでは?」という不安を抱く方も多いでしょうが、実際には未経験から人事になる方法はいくつか存在します。ただし、それぞれに特徴や注意点があるため、自分の現在の状況や強み、将来のビジョンに合ったルートを選ぶことが大切です。ここでは現実的で実践可能な4つのルートについて、それぞれのメリットと注意点を詳しく解説していきます。

3-1. 社内異動で人事部に移る

営業・総務・経理などの現職から社内公募や異動を通じて人事にキャリアチェンジする方法は、最も現実的なルートです。会社の制度・文化を理解したうえで人事に携われることや、未経験でも比較的受け入れられやすいというメリットがあります。また、社内に採用や研修などのプロジェクトがある場合、まずはそこに参加してみるのも一つの手です。採用プロジェクトや社内環境改善プロジェクトなどを経験することで、人事的な視点を身につけつつアピールの材料にできます。

ただし、異動タイミングは会社都合による部分もあり、希望が必ず通るとは限らないため、日頃から上司や人事部門との関係構築を心がけ、自分の意向を伝えておくことが重要です。

3-2. 未経験OK求人からチャレンジ

ベンチャー企業など、事業拡大を目指して積極的に採用活動を行う企業では、採用アシスタントや人事アシスタントを未経験求人として募集しているケースがあります。こうした募集を入り口に人事のキャリアを始めるのも有効な方法です。

ただし、未経験枠は応募者が多く競争率が高いため、「なぜ人事なのか?」という志望動機をしっかり言語化する必要があります。特に採用ポジションは、求職者を集めたり入社を促したりするプロセスが営業やマーケティングに近いため、現職の経験をどう人事に活かせるかを具体的に示すことが差別化につながります。

3-3. 人材業界から人事へキャリアチェンジする

人材紹介会社、派遣会社、研修会社などから人事へ移る、いわゆる「隣接領域」からのキャリアチェンジも有効な方法の一つです。人材に関する知識や経験を活かせることや、採用活動や研修企画との親和性が高いことは大きなメリットです。

ただし、外部から企業を支援する立場と、社内で人事を担う立場とでは求められる役割が大きく異なります。これまでの経験の中で人事に活かせる部分と、新たに学ぶ必要がある部分を切り分けて考えておくことが大切です。その視点を持てれば、自分の強みを正しく伝えられるだけでなく、人事として新しい挑戦に向き合う準備にもなります。

3-4. 資格や学習で知識を補強する(社労士・キャリアコンサルタントなど)

社会保険労務士、キャリアコンサルタント、簿記などの関連資格で知識を補強する方法もありますが、資格だけで人事に採用されることは少ないのが現実です。学習を通じて「やる気・関心」を示せることが、労務領域やキャリア支援系のポジションで評価に繋がる可能性はありますが、それはあくまで補助的な位置づけであり、実務経験がないと評価は限定的になるため、資格取得が自身の目指すキャリアに直結するかどうかは慎重な判断が必要です。

未経験から人事になるには複数のルートがあるものの、「自分がどのルートを選ぶか」は、強みやキャリアビジョンによって異なるため、「どんな人事をやりたいのか」×「どんな方法で入るのか」をセットで考えることが成功への鍵となります。

4. なぜ人事になりたいのか?自分の動機を整理しよう

「人事になりたい」という気持ちはとても素晴らしいことです。ただ、その思いをしっかり言語化できると、転職活動でも強い志望動機になりますし、自分のキャリアの納得感も高まります。ここでは、よくある3つの志望動機を起点に「なぜ人事なのか?」を深掘りして、自分の動機をよりクリアにしてみましょう。表面的な理由から一歩踏み込んで考えることで、本当に自分が求めている働き方や価値観が見えてくるはずです。

4-1. 「人と関わりたい」から一歩深めて考える

人事は確かに「人と関わる」仕事ですが、対象は社員や候補者が中心となります。営業やカスタマーサクセスなど、人と深く関わる仕事は他にもたくさんあるため、なぜその中でも「社員や候補者と関わりたい」のかを考えることが重要です。会社で働く人たちの成長や幸せに貢献したい、働く環境をより良くしたいという思いがあるなら、それが人事ならではの魅力と言えるでしょう。自分の「人と関わりたい」という気持ちの根っこにある価値観を探ることで、より説得力のある動機を見つけることができます。

4-2. 「組織をよくしたい」なら人事でどう貢献したいのかを考える

「組織をよくする」という思いは人事の大切な役割の一つですが、経営企画や事業推進など、組織改善に携われる仕事は他にも存在します。人事ならではの貢献は「人材を通じて組織を良くする」ことにあるため、採用で良い人材を集めたい、教育で社員を成長させたい、制度で働きやすい環境を作りたいなど、具体的にどの領域で貢献したいかを明確にすることが大切です。人材という切り口から組織改善にアプローチすることに魅力を感じるなら、それが人事を選ぶ強い理由になります。

4-3. 「人を育てたい」なら人事の中でもどの領域かを考える

「人を育てたい」という思いは、教育研修という分野に直結します。ただし、育成に関わる道は人事だけではありません。事業部内の教育担当として現場に近い距離で伴走するキャリアもあれば、研修会社など外部の専門機関で育成に携わる道もあります。その上で、なぜ自分は「企業の人事」という立場で教育研修に関わりたいのかを考えることが大切です。人事だからこそできることは、会社全体を見渡し、組織戦略とつなげながら人材育成を設計できる点です。自分が教育に関わる中で、現場に近い支援なのか、組織全体を見据えた施策なのか――どちらに魅力を感じるのかを整理することで、納得感のある動機を作れます。

4-4. 志望動機の深堀がキャリアを育む

自分の「なぜ人事なのか」を深掘りすることで、転職活動では説得力のある志望動機につながり、企業やポジション選びの指針にもなります。内省の結果、人事以外の道が自分に合っていると気づくこともあるでしょう。大切なのは「人事になる」ことを目的化するのではなく、自分らしいキャリアを見つけることです。

表面的な理由から一歩踏み込んで考えることで、本当に大切にしたい価値観や働き方が見えてきます。その気づきは、人事を目指すにせよ、別の道を選ぶにせよ、キャリアにとって大きな財産となります。動機が明確になれば、面接での説得力も増し、入社後の仕事への向き合い方にも良い影響を与えるでしょう。

5. まとめ

人事という職種は、採用・労務・教育・組織開発という多様な領域があり、それぞれ異なるスキルとキャリアパスを提供してくれる魅力的な仕事です。企業の規模や戦略によって求められる役割は大きく変わるため、自分がどんな人事を目指すのかを明確にすることが成功への第一歩となります。未経験からでも社内異動、未経験求人、人材業界経由、資格取得など複数のルートが存在し、自分の状況に合わせて最適な方法を選ぶことができます。 最も大切なのは、「なぜ人事になりたいのか」という動機を深く掘り下げ、言語化することです。表面的な理由ではなく、自分の価値観や大切にしたい働き方を明確にすることで、転職活動での説得力が増し、入社後のキャリアにも納得感を持てるでしょう。人事の道は決して平坦ではありませんが、人と組織の成長に貢献できる、非常にやりがいのある仕事です。この記事があなたの人事キャリアへの第一歩を後押しし、充実した職業人生を歩むきっかけとなることを心から願っています。