「マーケティングの仕事に挑戦してみたい」

多くの人が「アイデアを形にできる仕事」「影響力のある仕事」といった側面に惹かれ、マーケティングに興味を持ちます。その気持ちは、好奇心や成長意欲の表れとして、とても素晴らしいものです。

一方で、マーケティング職は華やかに見える反面、仕事内容が抽象的で実態がつかみづらいという側面もあります。実際には、企業やチームによって担当領域が大きく異なり、求められる役割やスキルも一様ではありません。

マーケティングを「やりたい気持ち」を仕事にしていくためには、次の3つのことを考えてみてほしいのです。

  1. マーケティング職はどんな仕事か理解しているか?
  2. 自分が“やりたい”と感じているのは、どのような働き方や価値観なのか?
  3. その気持ちをキャリアとして実現するために、どんな準備や経験が必要か?

この記事では、こうした問いを一緒に考えることで、「やりたい」という気持ちをより具体的なアクションへとつなげていくヒントをお届けします。転職をゴールとするのではなく、あなた自身のキャリアの軸を育てていくために、ぜひ読み進めてみてください。

目次

1. やりたいを実現する前に ――マーケティングの仕事とは?

「マーケティングをやりたい」と思ったとき、まず大切なのは「マーケティングって実際どんな仕事なの?」を正しく理解することです。SNSで見かける華やかな広告やおしゃれなキャンペーンは、マーケティングの一部分に過ぎません。本当のマーケティングは、もっと奥深くて幅広い仕事です。また、働く会社の規模や業界によって、同じ「マーケティング職」でも役割が大きく変わります。

まずはマーケティングの全体像や具体的な仕事内容を把握し、自分のイメージする仕事と相違がないか確認してみましょう。

1-1. マーケティング=「売れる仕組みをつくる仕事」

マーケティングを一言で表すなら「売れる仕組みをつくる仕事」です。単に広告を出したり、SNSを更新したりといった個別の手法を指すだけではありません。お客さんが「この商品がほしい」「このサービスを使ってみたい」と自然に思えるような環境や流れを作り出すのが、マーケティングの本質的な役割です。

例えば、新しいコーヒーショップを開店するとします。マーケティング担当者は「どんな人がお客さんになりそうか」「その人たちはどこで情報を得るか」「どんな価格なら納得してもらえるか」「どんなメッセージを伝えれば興味を持ってもらえるか」といったことを考えて、お店に自然とお客さんが集まる仕組みを設計します。

経営学者のピーター・ドラッカーは「マーケティングの理想は販売を不要にすること」と言いました。つまり、お客さんの方から「買いたい」と思ってもらえる状態を作ることが、マーケティングの究極の目標なのです。この考え方を理解すると、マーケティングがただの宣伝活動ではないことがわかります。

1-2. なぜ今、マーケティング職のニーズが高まっているのか

近年、マーケティング職の需要が急速に高まっています。転職サイト「type」の調査によると、2025年8月末時点の「営業・企画・マーケティング系」の求人数は、2024年1月と比較して約1.2倍に増加しています。(【2025年9月最新】有効求人倍率の推移を職種別に紹介! - type(topics.type.jp/))

この背景には、下記のような社会的変化があります。

  • 消費者動向の多様化
    消費者の志向が多様化するにつれ、従来のマスメディアだけではリーチできないターゲットも増えています。これにより、企業側にもより高度で個別最適なマーケティングが求められています。
  • BtoB領域における営業手法の変化
    マーケティングを通じて見込み顧客を獲得・育成し、営業部門へ引き渡す“分業型セールスモデル”が定着し、BtoB領域においてもマーケティング人材のプレゼンスが高まっています。
  • Web、SNSなどマーケティングチャネルの多様化
    SNS・検索エンジン・動画・メール・オウンドメディアなど、様々なマーケティングチャネルが登場し、顧客とのタッチポイントが急増。それぞれに適した戦略設計・運用が必要となり、専門的なスキルを持つ人材の需要が高まっています。
  • マーケティングのデジタル化による専門性の高まり
    デジタルマーケティングが主流になるにつれ、広告運用・アクセス解析・CRM・MA(マーケティングオートメーション)など、使用するツールや手法が高度化・細分化しています。これにより、これまでの経験や勘に加え、データに基づく客観的な戦略立案が必須となっています。

こういった変化に伴い、従来は限られた業界でのみ重視されていたマーケティングですが、今では製造業、金融業、医療業界まで、ほぼ全ての分野で必要とされる職種となっています。

1-3. 求人が多いからこそ気を付けたいこと

求人が増えている今だからこそ、「自分に合った環境選び」がより重要になります。マーケティング職は企業によって役割が大きく異なり、広告運用、ブランド戦略、CRM、コンテンツ制作、データ分析など、求められるスキルも働き方も全く違うのが実情です。

例えば、同じ「マーケティング職」でも、広告運用担当なら数字の分析と細かな調整作業が中心となり、ブランド戦略担当なら長期的な視点での企画立案と社内調整が主な業務となります。「マーケティングをやりたい」という熱意を確かなキャリアにつなげるためには、業務内容と自分の期待が合致しているか、事前に解像度を上げておくことが大切です。

大切なのは、自分の志向やスキルが、企業の抱える『解決したい課題』とどう結びつくかを丁寧に考えることです。企業は単に作業者が欲しいのではなく、事業を前に進めてくれる人を求めています。この『期待値のすり合わせ』こそが、入社後の活躍を決める鍵となります。

2. やりたいのはどれ? ――マーケティングの多様な仕事スタイル

マーケティングと一口に言っても、「誰に向けて」「どんな方法で」「何を目指すのか」によって、仕事の進め方や求められる考え方は大きく変わります。このセクションでは、マーケティング職の全体像を把握しつつ、企業規模や扱うサービスの特性、マーケティングの目的によって変わる仕事のスタイルについて解説します。

自分が持つマーケティング職の仕事イメージと照らし合わせながら、自分がやりたい仕事と合致するのか考えてみましょう。

2-1. マーケティング職の主な業務領域

マーケティングは「調査 → 企画 → 実行 → 分析」のサイクルを回しながら、成果につなげていく仕事です。一見シンプルに見えるこの流れですが、それぞれの工程には異なる専門性と判断力が求められます。

調査|ユーザーの“声なき声”を拾う

マーケティングの第一歩は、「誰の、どんなニーズに応えるのか」を知ることから始まります。定量調査(アンケート、アクセス解析)、定性調査(インタビュー、SNS分析)などを使い分けながら、顧客の課題・欲求・行動背景を掘り下げていきます。競合調査、市場動向の把握、業界構造の理解もこのフェーズに含まれます。顧客の言葉に表れない「本音」や「背景」を読み取る力が重要です。

企画|情報をもとに「売れる仕組み」を設計する

調査結果をもとに、どんな商品・サービスをどのターゲットに、どう届けるかを設計するのが企画フェーズです。「ターゲット設定」「訴求ポイントの設計」「チャネル選定」「KPI設計」など、マーケティングの設計図を描くような工程です。感性だけではなく、論理的な構成力や仮説構築力が求められます。そして、ここでの企画力が、「実行」や「分析」の質にも大きく影響します。

実行|多くの関係者と協力し、施策を動かす

設計した戦略に基づいて、実際の施策を実行します(広告配信、SNS投稿、イベント企画、LP制作など)。自分ひとりで完結することは少なく、社内外の関係者(広告代理店、制作会社、デザイナー、開発チームなど)と連携しながら進める必要があります。スケジュール管理、品質チェック、効果予測の調整など、プロジェクトマネジメント力も問われる場面です。想定外のトラブルにも柔軟に対応しながら、施策を完遂する力が重要です。

分析と改善|数字から学び、次の施策へつなげる

実行した施策を定量的に振り返り、「どの部分がうまくいったか」「何が原因で成果が出なかったのか」を読み解きます。GoogleアナリティクスやBIツール、SNSのインサイト機能などを活用して、データから仮説を導き出します。分析で終わらせず、「次にどう活かすか」までがセットで求められます。分析はマーケターの価値を左右する重要な仕事の一つ。失敗から学べる力が成長の鍵となります。

上記の工程に加えて、長期的に顧客との関係を築く「ブランディング」や「CRM(顧客関係管理)」もマーケティングの重要な役割です。特定の専門分野に特化した職種(ブランドマネージャー、プロダクトマーケター、デジタルマーケターなど)も多く、幅広いキャリアパスがあります。

「マーケティング」と聞くと「市場調査を通じて消費者動向をとらえる仕事」と捉える人もいれば「消費者の心をつかむ広告を企画する仕事」をイメージする人もいるかもしれません。しかし、それはあくまでマーケティングの一側面に過ぎず、実際にはお仕事の領域は多岐に渡ることを理解する必要があります。

2-2. 大企業とベンチャーで変わるマーケティング職の役割

同じマーケティング職でも、働く会社の規模によって日々の業務内容は大きく変わります。

たとえば、大企業ではマーケティング部門が細かく機能別に分かれており、広告、PR、ブランド、デジタル、商品企画などがそれぞれ専門の担当者によって運営されることが多いです。一人あたりの担当領域は狭い分、深い専門性を持って仕事に取り組むことが求められるケースが多くなります。社内の関係者も多く、関係調整や社内報告など大規模組織ならではのプロセス管理力も必要になります。

一方で、ベンチャーや中小企業では、マーケティング職が広範な業務を一人または少人数で担うことが多いです。SNS投稿、広告運用、資料作成、ブランディング施策など、「全部やる」スタイルになることも多く、担当領域の広さがそのまま成長のスピードにつながります。分析も実行も改善も一貫して担当することが多く、成長スピードは速い反面、自己解決力が求められます。

2-3. toBマーケティングとtoCマーケティングの違い

マーケティングの対象が「企業」か「個人」かによって、仕事の進め方や成果の設計は大きく異なります。それぞれの構造やプロセスについても把握していきましょう。

toCマーケティングの「認知拡大×購買促進」を目的とした多層構造

toCマーケティングでは、認知拡大から購買促進まで目的に応じて施策が分かれているのが一般的です。

  • テレビCMや屋外広告などのマス広告でブランド認知を獲得
  • SNSで共感や話題性を広げ、日常的な接点をつくる
  • Web広告やEC施策で購買を後押しする

このように、複数の施策を打ちながら、一人の顧客とのタッチポイントをいかに設計するかがポイントとなります。特にtoCは「接点がすべて」という側面も強く、マーケティング施策は多層的・多面的になりがちです。

toBマーケティングの構造化されたプロセス

一方、toBマーケティングでは、課題喚起から商談化までのプロセスがより構造化されています。

  • Web広告やSEO、展示会などでまず見込み企業に認知してもらう
  • 資料提供やセミナーを通じて見込み顧客を囲い込む
  • こまめな情報提供を通じて関係性を深める
  • 最終的に営業が提案・クロージングへとつなげる

このプロセスは「成果がすぐに出にくい」反面、施策が営業と密接に連動するため、売上貢献が明確になりやすいという特徴もあります。

このように、toBマーケティングとtoCマーケティングでは、アプローチや手法が違うだけでなく、仕事の構造自体が大きく異なります。

2-4. Webマーケティングとオフラインマーケティングの違い

マーケティングの手法にも大きな多様性があります。特に「Web(オンライン)」と「オフライン」では、施策の進め方や成果の測り方、重視される感覚が大きく異なります。

Webマーケティングは、広告配信やSEO、SNS運用、メールマーケティングなど、すべての活動が数値で管理され、PDCAを回しやすいことが特徴です。「どの広告がクリックされたか」「どのページで離脱したか」といった情報が明確に取れるため、数字を根拠にした意思決定がしやすい環境です。

一方、オフラインマーケティングでは、リアルイベントやポスター、チラシ、店舗での体験など、“人の行動や感情”を肌感覚でとらえる力が求められます。たとえば試飲イベントでの来場者の反応や、店頭での購買行動など、現場で感じる雰囲気や対話から得られる情報は、数字だけでは捉えきれない価値があります。

近年では、Webとオフラインを掛け合わせる「OMO(Online Merges with Offline)」の考え方も広がっており、どちらか一方のスキルだけでなく、両者を横断する設計力も重要視されるようになっています。手法が変わると、成果の見え方も、日々の仕事の進め方も変わります。

2-5. 短期集客施策とブランディング施策の違い

マーケティングの施策は、大きく分けて「短期的な成果を狙うもの」と「長期的な関係構築を目指すもの」があります。この“時間軸の違い”によって、施策の設計、評価方法、仕事のリズムは大きく異なります。

たとえば、短期施策は「今月の売上を上げる」「来週のイベント来場者を増やす」といった即効性のある成果を目的とするもの。Web広告の出稿、クーポン配布、SNSキャンペーンなどが代表例です。数値で効果が可視化されやすく、PDCAも回しやすいため、テンポ感のある業務になります。

一方、ブランディング施策は、「この会社の信頼性を高めたい」「ブランドの“らしさ”を育てたい」といった長期的な視点で取り組む活動です。コンテンツ発信、ビジュアル設計、理念浸透など、数値化しづらい取り組みも多く、成果が現れるまでに時間がかかるのが特徴です。

ここまで見てきたように、マーケティング職は、企業の組織体制、ターゲット、手法、目指す成果によって仕事の進め方が大きく異なります。だからこそ、自分が思い描いている「やりたいマーケティング」が、どのような文脈にあるのかを具体的にしていくことが大切です。

3. マーケティング職において求められるスキル

マーケティング職に興味を持ったとき、「自分にできるだろうか?」「どんな能力が必要なんだろう?」と不安に思うのは当然です。マーケティングの仕事は、特別な才能や資格が必要というわけではありません。しかし、仕事の性質上、いくつかの共通したスキルや考え方が求められます。

現在の自分に当てはまるものがあるか、また今後伸ばしていきたいと思えるものがあるかを考えながら読んでみてください。

3-1. 協業が前提の仕事 → コミュニケーション力・調整力

マーケティングは、一人で完結する仕事ではありません。営業チーム、商品開発チーム、デザイナー、エンジニア、広告代理店など、たくさんの人と連携しながら進める必要があります。そのため、相手の立場や専門領域を理解して、適切に伝えたり調整したりする能力が非常に重要になります。

例えば、新しいキャンペーンを企画する場合、営業チームには「どんなお客さんに効果的か」を説明し、デザイナーには「どんな雰囲気にしたいか」を伝え、システムチームには「どんな機能が必要か」を整理する必要があります。それぞれ専門用語や関心ポイントが違うため、相手に合わせて話し方を変えることが求められます。

関係者全員が同じ方向を向いて進めるように調整するのが、マーケターの大切な役割の一つと言えるでしょう。

3-2. 成果は数字で評価される → 論理的思考力・分析力

マーケティングの施策は、最終的に「売上がどのくらい上がったか」「お客さんがどのくらい増えたか」「認知度がどの程度向上したか」といった数字で評価されます。そのため、データを正しく読み取り、「なぜその結果になったのか」を論理的に説明できる力が必要です。

例えば、広告を出した後に売上が20%増加したとします。この時「広告のおかげで売上が伸びた」と単純に考えるのではなく、「どの広告がどのくらい効果があったのか」「費用対効果はどのくらいか」「他の要因はなかったか」「今後も同じ効果が期待できるか」といったことを分析する必要があります。高度な統計学や数学の知識が必要というわけではありませんが、大切なのは「なぜそうなったのかを考える習慣」と「数字の変化に敏感になること」です。普段から数字を意識する癖をつけておくと、マーケティング職に就いた時に大きなアドバンテージになります。

3-3. 答えのない課題に挑む → 仮説構築力・胆力

マーケティングは「正解のない問題」に取り組む仕事です。同じ商品でも、ターゲットの設定方法や訴求メッセージによって結果は大きく変わりますし、競合他社の動きや市場環境の変化によっても最適解は変わります。完璧な情報がそろってから動くのではなく、限られた情報の中で「こうすればうまくいくはず」という仮説を立てて実行する勇気が必要です。

例えば、新商品のプロモーションを考える際、「20代女性にはInstagramが効果的だろう」「平日の夕方に投稿すると反応が良いだろう」といった仮説を立てて試してみます。結果が思わしくなければ、「なぜうまくいかなかったのか」を分析して、次の仮説を立てて再挑戦します。このプロセスでは、「まずは試してみる」という柔軟な姿勢が重要です。100%成功する保証がない中で、「まずはやってみよう」と判断し、責任を持って実行する覚悟が求められます。

もし正解を求めて立ち止まりそうになったとしても、「失敗も学習の一部」と捉えて、試行錯誤を楽しめるようになると、マーケティング職の面白さを実感できるでしょう。

3-4. 成果が出るまで時間がかかる → 粘り強さと学び続ける姿勢

マーケティング施策の中には、効果が現れるまで数ヶ月、場合によっては1年以上かかるものも少なくありません。SEOでWebサイトの検索順位を上げたり、ブランドイメージを向上させたり、お客さんとの長期的な関係を築いたりする活動は、すぐには結果が見えないものです。そのような中でも、「正しい方向に進んでいる」と信じて継続する粘り強さが重要になります。途中で諦めてしまうと、せっかく積み上げてきた効果が無駄になってしまうこともあります。

また、マーケティングは変化の激しい分野でもあります。新しいSNSプラットフォームが登場したり、プライバシー規制が変わったり、消費者の行動パターンが変化したりと、常に新しい情報をキャッチアップする必要があります。変化を楽しめる人にとっては、非常にやりがいのある分野と言えるでしょう。

3-5. デジタル時代の基礎素養としてのIT・メディアリテラシー

現代のマーケティング職において、「マーケティングの専門スキル」以前に求められるのが、ITやメディアに対する基本的なリテラシーです。これは特別な専門知識というよりも、日常的にデジタルの仕組みに触れながら、正しく理解し、活用していくための“土台”のようなものです。

たとえば、Googleアナリティクスや広告運用ツール、SNSの管理画面など、マーケターが日常的に触れるツールはIT技術の延長線上にあります。また、Webサイトの構造やSEOの仕組み、Cookieやプライバシー規制といった基礎的なテクノロジーの理解も、施策設計に影響します。さらに、SNSを中心とした生活者のメディア接触の変化や、インフルエンサー文化、情報の拡散メカニズムなど、現代の「情報の流れ」を理解することも重要です。ここには炎上や誤解を招くリスクを回避する「ネットリテラシー」も含まれます。

マーケターは単に情報を届けるだけでなく、「どうすれば伝わるか」「どんな文脈で届くか」を読み取る存在でもあります。その前提となるIT・メディア・ネットリテラシーは、すべてのマーケティングスキルのベースとなる力と言えるでしょう。

これらのスキルは、どれも特別な才能ではなく、経験と意識によって身につけることができるものばかりです。今の自分に足りないものがあっても、「伸ばしていきたい」と思える分野があれば、マーケティング職への挑戦を検討する価値は十分にあります。

4. マーケティング職に繋がるキャリアを築くには

ここまでマーケティングの基本的な内容や求められるスキルについて説明してきましたが、「実際にどうすればマーケティング職に就けるのか?」が一番気になるポイントでしょう。

マーケティング職は時代とともに手法も多様化し、求められる専門性が高まっているため、未経験からチャレンジすることが難しい領域です。そのため、転職によってキャリアチェンジをするのも一つの手段ではありますが、現在の職場や日常の中でできることから段階的にスキルと経験を積み重ね、キャリアをシフトしてくのが現実的で効果的なアプローチです。

ここでは、自身のキャリアをマーケティング職に繋げていくための具体的な行動を解説します。無理のない範囲で、今すぐできることから始めてみましょう。

4-1. 現職でできるマーケティング力の磨き方

「マーケティング職以外では、マーケティングのスキルは身につかない」と思っている人も多いですが、実際にはどんな職種でもマーケティング的な考え方や能力を鍛える機会があります。

  • 営業職:お客さんのニーズを聞いて、それに合った提案をする。これは市場調査や顧客理解といったマーケティングの基本スキルそのものです。
  • 事務職:読み手が知りたい情報を先回りして資料にまとめたり、スムーズな会議進行を設計したりすることは、「相手の体験を良くする」というマーケティング思考にも繋がります。
  • 販売職:どんな商品がどんなお客さんに売れるかを肌で感じ取る。これは活きたマーケティングの知見に繋がります。

マーケティングの本質は『顧客理解』にあります。 今のお仕事の中でも、実際のお客さんや上司などの仕事の依頼者に対して「どのような工夫をして、どんな成果を出したか」を意識することで、マーケターとしての素養を磨くことが可能です。

また「なぜこの方法がうまくいくのか」「どうすればもっと良くなるか」など、目の前の事象や課題を深く掘り下げる習慣をつけると、自然とマーケティング的な思考が身につきます。思考で終わらせず実践機会を得るには、社内で何かの企画を提案したり、改善案を出したりする機会があれば、積極的に手を上げてみることも有効です。

このように、小さな実績でも、積み重ねていくことでマーケティング領域の仕事に繋げていくことが可能です。

4-2. 独学・実践で学べるマーケティングスキル

マーケティングは、独学でも十分に基礎知識を身につけることができる分野です。書籍では基礎的な考え方・仕事内容をまとめた入門書から、実例を題材にしたケーススタディまで、幅広い選択肢があります。YouTubeやUdemyなどの動画サービスでは、実際のツールの使い方から戦略の立て方まで学ぶことができます。

特に効果的なのが「学びながら実践する」アプローチです。自分でブログを始めてSEOを試してみたり、TwitterやInstagramでフォロワーを増やす挑戦をしてみたりすることで、理論だけでなく実際の感覚も身につけられます。例えば、趣味についてのブログを書きながら「どんなタイトルだとクリックされやすいか」「どんな内容だと最後まで読んでもらえるか」を試行錯誤してみると、Webマーケティングの基本が体感できます。無料で始められるので、リスクなくマーケティングの実践経験が積めます。

この「学習×発信×分析」のサイクルを回すことで、生きた知見を身に付けることができます。

4-3. 未経験からマーケティング職につながるキャリアパス

「未経験からマーケティング職に就くのは難しそう」と感じる方も多いかもしれませんが、実際にはさまざまなルートが存在します。いきなり理想のポジションを目指すのではなく、マーケティングに近い経験を積みながら徐々にキャリアを寄せていくのが現実的な戦略です。

以下に、代表的なアプローチを紹介します。

代表的なキャリアパス:

  • 社内異動:
    現職のままマーケティング関連業務に関わることができるため、リスクが少ないルートです。たとえば営業職などで培ってきた市場理解や企画提案力は、マーケティング職にも直結しやすいです。
  • 広告代理店への転職
    いきなり事業会社のマーケティングポジションに就くのは難しいですが、Web広告代理店やプロモーション会社など外部のマーケティング支援会社では、未経験者の採用を行っているケースもあります。特にアカウントプランナーや運用担当は、転職実績が多いポジションです。
  • 副業・プロボノ:
    個人ブログやSNS運用、知人の小さな事業のマーケティング支援など、実践の場は案外身近にあります。実績をポートフォリオ化しておくことで、転職時のアピール材料に使うこともできます。

もちろん、上記のいずれかを選べば必ずマーケティング職になれるわけではありません。重要なのは、今の自分の職務・環境の中に「マーケティング的要素」を見出し、それをどう言語化・転用していくかです。

5. 「やりたい」を掘り下げて見つける、マーケティング以外の選択肢

ここまでマーケティング職について詳しく見てきましたが、少し視点を変えて考えてみましょう。

あなたが「マーケティングをやりたい」と思った理由は何でしょうか。実は、その根本的な動機を深掘りしてみると、マーケティング以外にもあなたの「やりたいこと」を満たせる職種や働き方があるかもしれません。職種名にとらわれすぎず、「どんなことに面白さを感じるか」「どんな場面でワクワクするか」を深掘りすることで、もっと広い可能性が見えてきます。

このセクションでは、マーケティングという選択肢も含めて、広い視点であなたのキャリアを考えるきっかけを提供します。

5-1. 「なぜ自分はマーケティングをやりたいと思ったのか?」を掘り下げる

マーケティングに惹かれる動機にはいくつかのパターンがあります。「企画を考えるのが楽しそう」「創造的な仕事がしたい」「数字を分析して改善していくのが面白そう」「お客さんの気持ちを理解する仕事がしたい」「自分の提案で会社や商品に影響を与えたい」などです。

これらの動機はどれも素晴らしいものです。一方で、キャリアを考える上で大切なのは、その動機を満たせる場所は、「マーケティング職以外にもあるかもしれない」と視野を広げてみることです。例えば、「創造的な仕事がしたい」という動機なら、デザイナー、ライター、商品企画、イベント企画など、他にも多くの選択肢があります。まずは自分の「やりたい」の根っこにある動機を明確にしてみることで、より幅広い選択肢が見えてくるはずです。

5-2. 「やりたいこと」から広げて考えられる他の職種例

具体的に、マーケティングに惹かれる動機別に、他の職種の可能性を考えてみましょう。

仕組みを作るのが好き

「何かを効率化したい」「流れを最適化したい」という思考が強いなら、業務改善や業務設計に関わる仕事も選択肢になります。事務職でマニュアル整備や業務フローの見直しを担当したり、現場の課題をITで解決する社内SEや情報システム部門で働いたり、小規模チームでの仕組みづくりを担う総務や営業アシスタントなども考えられます。これらの職種では、マーケティングとは違った角度から「仕組み作り」の面白さを味わえます。

自分のアイディアを形にしてみたい

「何かを発信したい」「自分発の提案で動かしてみたい」という思いを満たせる環境や働き方を探すのが一つの手です。小規模ベンチャーやスタートアップでは幅広い業務を任されることが多く、アイディアを実現する機会も豊富です。また、SNSやブログで個人的な発信を始めたり、現職で社内提案や改善提案を積極的に行ったりすることで、小さく始めながら「アイディアを形にする」経験を積むこともできます。

分析をするのが好き

「データを見て仮説を立てたい」「物事を数値で捉えるのが得意」と感じるなら、数字を扱う仕事全般が向いている可能性があります。経理・会計では数字の裏を読み取る力が求められ、営業事務や営業企画ではKPI管理や予算管理など数字分析のスキルが活かせます。ExcelやGoogleスプレッドシートを活用したレポーティング業務や、データ活用を重視するチームへの異動・配属希望を出すことも検討できるでしょう。

5-3. 「手段」ではなく「軸」で考えるキャリアのすすめ

キャリアを考える際に大切なのは、職種名という「手段」にとらわれすぎず、自分の「軸」から逆算して設計することです。「自分の得意なこと」「興味のあること」「続けたいこと」を明確にした上で、それらを活かせる働き方や環境を探していく視点が重要になります。

例えば、「人とのコミュニケーションを通じて課題解決をしたい」という軸があるなら、マーケティング職だけでなく、営業、カスタマーサポート、人事、コンサルタントなど様々な選択肢があります。「データを活用して改善提案をしたい」という軸なら、マーケティング以外にも経営企画、品質管理、業務改善担当など多くの可能性があります。また、必ずしも転職する必要もありません。現在の職場で新しい業務に挑戦したり、副業や個人プロジェクトで経験を積んだり、社内異動を希望したりすることで、自分の「軸」を活かせる働き方を見つけることもできます。

マーケティングという選択肢も含めて、広い視点でキャリアを捉えることで、より納得感のある決断ができるようになります。「やりたいこと」の本質を見極めることが、充実したキャリアを築く第一歩となるでしょう。

※転職を具体的にご検討の際は、ぜひこちらの記事をお役立てください。
【転職完全ガイド】転職判断・準備から面接・入社後まで、全ステップを網羅―とこキャリ(tokon.co.jp)

6. まとめ

「マーケティングをやりたい」という気持ちは、きっと素晴らしいキャリアの出発点になります。

もしマーケティング職を目指すと決めたなら、まずは現職でできる小さなことから始めてみましょう。大切なのは「完璧になってから動く」のではなく、今いる場所から小さく始めることです。現職で企画を提案してみたり、個人でブログを始めてみたり、マーケティングの本を読んでみたり。そうした小さな一歩が、やがて大きなキャリアチェンジにつながっていきます。

もし「マーケティングをやりたい」の動機を振り返った上で他の職種に興味を持ったなら、それもまた素晴らしい発見です。どの道を選んだとしても、「なぜそれをやりたいのか」という軸がしっかりしていれば、きっと充実したキャリアを築けるでしょう。

変化の激しい時代だからこそ、職種名や肩書きではなく、あなた自身の価値観や興味を大切にしてください。完璧な答えを見つける必要はありません。一歩ずつ、自分らしいキャリアを歩んでいってください。あなたの挑戦を心から応援しています。