変化が激しく、正解のない社会だからこそ、「どこでも通用する力を身に着けたい」と思う人が増えているのではないでしょうか。
「成長することで収入を増やしたい」「市場価値を高め、多くの選択肢の中からより希望に合う選択をしたい」などと考える方は多いですが、その想いの根底には、社会の変化に対応できず評価されなくなってしまうことへの不安もあるのではないでしょうか?

では「どこでも通用する力」とは、具体的にどんなスキルなのか、イメージできますか?
今回はキャリア形成において1つ、重要な考え方をご説明したいと思います。

ポータブルスキルとは

「ポータブルスキル」という言葉を聞いたことがありますか?
日本語に直訳すると「持ち運びができる能力」。
仕事や環境などが変わっても、どこでも役に立つ能力のことを指します。

1つ例を挙げると「コミュニケーション能力」はポータブルスキルの比較的わかりやすい例だと言えます。
どのような仕事においてもコミュニケーションは発生するもの。
・伝えたいことを正確に伝えることができる
・相手の言いたいことを認識の相違なく受け取ることができる
・話しやすい空気を作り、相手の想いや本音を引き出す etc
一言にコミュニケーション能力といっても様々な要素がありますが、このようなコミュニケーションのスキルをどんな環境においても発揮できる方は、仕事において信頼が得やすく、職場において重宝されると言えるのではないでしょうか。

一方で、どこでも通用するわけではない、活用場面が限定されるスキルを「アンポータブルスキル」といいます。
「IT技術」「科学的知見」「法律の知識」など、特定の分野のみで活かせるスキルがこれに該当します。
よく言われる「手に職をつける」という言葉は、「アンポータブルスキル」のイメージに近いかもしれません。

何故ポータブルスキルが大事か?

人手不足が顕著になる昨今。
企業は、新卒採用だけではなく、中途採用にも力を入れ、より自社に合う、活躍できる人材を常に求めています。

また、雇用のあり方も変化しており、今では終身雇用が当たり前ではなくなり、ジョブ型雇用や人材の流動化の流れが広がりつつあります。
そんな中、個人も会社に依存するのではなく、より自律していくことが求められるようになってきました。

「一社で長く働き続ける」という時代は変わりつつあり、社会の変容に合わせて柔軟にキャリアを築いていくために、ポータブルスキルを身に着けていくことには大きな関心が高まっています。

念のため補足をすると、決してアンポータブルスキルが軽視されているわけではありません。
高い専門性を有する仕事は世の中にはたくさんあり、どんなに高いポータブルスキルを持っていても、その役割は担えません。
特定の業界や領域で長く活躍していきたい方であれば、アンポータブルスキルを身に付け、磨いていくことはとても大切なことです。
一方、会社という垣根が曖昧になりビジネスの場がよりオープンになり、異業種間のコラボレーションなども盛んになる中、専門性(アンポータブルスキル)を持ちつつ、業界問わず活躍できる(ポータブルスキル)、両スキルを保有する人材のニーズは高まっています。

高い専門性を持つ方も、ポータブルスキルを身に付けることで活躍の幅を広げられるチャンスがあります。

ポータブルスキルの具体例

厚生労働省は職業能力診断ツールとして、「ポータブルスキル見える化ツール」という者を開発しています。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23112.html)
それによると、ポータブルスキルは「仕事のし方(対課題)」と「人との関わり方(対人)」において9つの要素に分類することができます。

仕事のし方

「仕事のし方(対課題)」には、仕事の一連の流れを遂行しきる上で必要とされる5つスキルが含まれます。

  • 現状の把握:情報収集やその分析を通じて、現状を正しく理解する力
  • 課題の設定:現状を踏まえ、何を課題とするべきかを定義する力
  • 計画の立案:課題に取り組むための具体的な行動を計画立てる力
  • 課題の遂行:スケジュールや予算・人員の管理を行いつつ、業務を進める上での障害やプレッシャーを乗り越える力
  • 状況への対応:予期せぬ状況に対応し、責任を取る力

人との関わり方

「人との関わり方(対人)」には、社内外や上司、部下といった各方向に対する対人スキルが含まれます。

  • 社内対応:経営層・上司・関係部署に対して納得のあるコミュニケーションをとり、支持を獲得する力
  • 社外対応:顧客・社外パートナー等に対して納得のあるコミュニケーションをとり、利害調整・合意形成を行う力
  • 上司対応:上司に対して適切な報告を行ったり、改善の意見を伝える力
  • 部下マネジメント:メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務差配を行う力

あなたにも既にポータブルスキルが備わっている?

もしかしたら、あなたも気付かないうちにポータブルスキルを身に付けているかもしれません。
仕事の場面はもちろんですが、日常生活でも生活におけるちょっとした工夫の中で課題解決力が磨かれていたり、友人や家族との会話の中で合意形成を行う力を発揮していたりと、無意識のうちにポータブルスキルを磨いているかもしれません。

日々の自分の行動を照らし合わせたときに、自分がどんなことを得意としているかを考えてみると、自分に備わっているポータブルスキルも見えてくるのではないでしょうか?

次回以降は、ポータブルスキルの一つ一つの要素をピックアップし、どんな場面で活きるか、どのように鍛えるべきかなど、より詳しくご紹介します。