転職活動において、企業研究は欠かせないステップです。とはいえ、企業のホームページや求人票を見ても、どこをどう見ればいいのか分からない、風土や社風は知りたいが事業内容は興味が湧きづらい、そもそも働くイメージが湧かないと悩む方も多いでしょう。実際、「企業研究が苦手」「どこに注目すれば良いか分からない」という声はよく聞かれます。
企業研究は単に情報を集めるだけではなく、その企業が自分に合った場所かどうかを判断するための大切なプロセスです。この記事では、企業を一人の「人」として捉え、その企業の「個性」を理解し、自分に合った職場かどうかを見極める方法を解説していきます。企業の個性を理解することができれば、企業との出会いがもっと楽しくなり、働くイメージも具体的に描けるようになるはずです。
目次
- 1. 何のために企業研究を行うのか?
- 2. 企業研究のゴール
- 3. 基本的な企業研究の方法
- 4. さらに企業への理解を深める方法
- 5. 企業研究の成果をどのように活かすか
- 6. まとめ: 企業の「人格」を理解し、働くイメージを具体化する
1. 何のために企業研究を行うのか?
面接において、事前に企業研究を行って面接などに臨んだ場合、面接官からは「熱心だ」「意欲的」など印象がよくなり、選考通過の可能性は上がるかもしれません。しかし、選考におけるポイントを稼ぐことが企業研究の本来の目的ではありません。ここでは、企業研究を行う目的を理解し、その重要性を考えていきます。
1.1 自分に合った職場を探すため
自分にとって理想のキャリアや働き方を実現するためには、その環境で働いた時に自分の理想を実現できるのか、事前に理解しておく必要があります。「職場環境なんて実際に働いてみないとわからない」と思う方もいるかもしれませんが、転職は失敗したらやり直せばいい、というものでもありません。転職を重ねるだけ、定着への懸念や行動に一貫性がない等の不安から、企業からの評価が下がり就業が不利になっていく恐れがあります。
会社の理念やビジョンに共感できるかどうか、やりたい仕事はできるか、成長支援の環境はあるか、裁量権のある仕事かどうか、ワークライフバランスは保たれるか、職場の雰囲気は自分に合っているかなど、応募する求人が自身の仕事観に合うのかどうか。事前にイメージを固めるためにも、企業研究は必要です。
1.2 面接の場を有意義なものにするため
面接は企業が応募者を評価する場でもありますが、同時に、応募者が企業を評価する場でもあります。そして、面接の場で企業を正しく評価するためにも、事前に企業研究を行い理解を深めておくことは大事なことです。求人情報やホームページなどの限られた情報だけでは理解が不十分で、イメージしきれないことも多々あるはず。その分からないことを確かめる場として面接に臨むことで、企業と有意義な情報交換を行うことができます。お互いの将来像を双方向のコミュニケーションで作り上げていくためにも、相手の情報を事前に調べて置き、少しでも前提を共有して同じ目線に立てる準備をした方が、面接がより前向きで建設的な場になるでしょう。
2.企業研究のゴール
企業研究が大事だとわかっていても、いざ実際にやってみると見るべき観点や正解がわからず不安に思ってしまうかもしれません。ここでは、企業研究のゴールとして、どんな状態に到達できれば企業研究ができたと言えるのか考えていきます。
2.1 企業研究が苦手だと感じる理由
企業研究が苦手な理由として、主に下記のような要因が挙げられると思います。
- 情報が多すぎてどこに注目すればいいのか分からない
- ひと通りの情報には目を通したけど、いまいち内容が頭に入らない
- 実際に働くイメージが湧かない
- 同業他社との違いが分からない
このように、企業研究に取り組んではいるものの、いまいち手ごたえを感じられない方は多いかもしれません。
そんな方にお勧めしたいのが、企業研究のゴールを「企業の人格」と捉えることです。
2.2 企業研究のゴールは「企業の人格」を捉えること
「法人」という言葉があるように、企業も人のように、それぞれ異なる人格を持っています。企業は様々な人が集まる集合体ではありますが、「経営理念」や「ビジョン」といった軸となる思想や目的があり、それを体現する「事業」があります。また、同じような事業であっても、何を提供価値と置き、それを実現するためにどんな体制を築いているかなど、その中身には違いがあります。
たとえば、同じコーヒーチェーン店でも、ある会社は「手軽で安価な品質」を提供価値とし、効率的な店舗運営を重視していますが、一方で別の会社は「心地よい空間と体験」を提供価値とし、居心地の良さを追求した体制を築いています。提供しているという、事業は同じですが、その提供している価値やそれを生み出す体制には違いがあるのです。
また、このような価値観や事業展開の違いは、現場のカルチャーや働き方にも影響を与えます。この企業によって異なる特徴を「人格」や「個性」と捉えて理解することができれば、その企業が自分に合っているかどうか、そして働きたいと思える魅力があるかどうかを判断することができるのです。
「この企業はこのような経営理念があるから、こういった事業展開を行っているのか」といったように、企業の「人格」が見えれば企業研究がもっと楽しくなり、企業との出会いを前向きに感じられるようになります。では、どうやってその企業の「人格」を理解していくのか、次のセクションで詳しく解説していきます。
3. 基本的な企業研究の方法
ここでは企業研究に役立つ「3Cフレームワーク」と「鷹の目、蟻の目」という2つの視点について解説します。
3.1 3Cフレームワークで企業の全体像を俯瞰する(鷹の目)
企業の「人格」を理解するためには、まず企業の全体像を掴む必要があります。ここで役立つのが、3Cフレームワークです。このフレームを活用して、企業のビジョンや価値観、競争環境を俯瞰し、企業の個性がどのように形成されているのかを理解します。
Company(企業):
企業自体に焦点を当て、次の情報を調査します。
- ビジョン・ミッション: 企業が目指す方向性や大切にしている価値観を理解する。
- 事業内容: 企業が提供する製品やサービスを通じて、どのような価値を顧客に提供しているのかを把握する。
- 財務状況: 企業の成長性や安定性、業績から、企業がどのように今後の戦略を進めるかを考える。
- 組織構造: 組織の規模や部門構成、リーダーシップスタイルを確認し、企業の意思決定の流れを掴む。
財務状況や組織構造は企業によって公開されていない場合もあると思います。もちろん情報があれば把握できるのがベストですが、まずはビジョン・ミッションと事業内容を把握できればOKです。
※情報収集の方法:
- コーポレートサイト
- 求人情報
- 代表者インタビュー
- ブログ・SNS など
Customer(顧客):
企業のターゲット顧客や市場環境を調査し、企業がどのような顧客のニーズに応えているかを理解します。これにより、企業の社会的な役割や市場での位置づけが見えてきます。
※情報収集の方法:
- コーポレートサイト(取引先企業 ※toBの場合)
- サービスサイト/実店舗
- 広告・キャンペーンの分析
- 口コミ・レビューサイト
- サービス名の検索 など
Competitor(競合):
競合企業との比較を通じて、企業の競争力や強み、差別化ポイントを理解します。競合他社と比較して、企業がどう異なっているのか、その差別化要素を把握することで、企業のユニークな価値が浮き彫りになります。
これらの情報を集めることで、企業の全体像を「鷹の目」の視点で俯瞰的に捉えます。企業の戦略やビジョン、業界でのポジションを広い視野で理解し、その企業が何を重視しているのか、どのような価値観を持っているのかを把握することができます。
※情報収集の方法:
- 競合他社のコーポレートサイト
- 業界・市場レポート
- ニュースやプレスリリースのウォッチング
3.2 働く人の目線で現場の実態を探る(蟻の目)
企業の全体像を把握した後は、「蟻の目」で現場の情報を集め、実際に企業のビジョンや戦略が現場でどのように実践されているのかを確認します。口コミサイト(OpenWorkなど)や社員インタビュー、SNSでの社員の発信、機会があれば会社説明会への参加を通じて、現場レベルでの働き方や企業の雰囲気を詳細に把握します。
また、特にtoCビジネスや営業、販売職を希望する場合には、実際に顧客として企業のサービスを利用してみることも、現場を理解する有効な手段です。製品やサービスの利用体験を通じて、企業の価値観や対応の質を肌で感じ取ることができます。
※情報収集の方法:
- 採用ホームページ/求人情報
- 会社の口コミサイト(OpenWorkなど)
- 社員のSNS/ブログ
- 会社説明会
- 実店舗/サービスの体験
3.3 「蟻の目」と「鷹の目」を結びつける
3Cフレームで得た企業全体の俯瞰的な情報(鷹の目)と、現場の実態に基づく具体的な情報(蟻の目)を結びつけて分析します。
「鷹の目」で企業のビジョンや戦略を俯瞰し、「蟻の目」で現場の実態を詳細に観察することで、企業の本質が見えてきます。全体感と現場感が一致していれば、企業の事業がうまく機能している証拠です。一方で、ギャップがある場合は、課題や改善の余地が見つかるでしょう。もしかしたら、採用の目的や入社後に与えられるミッションも、こうしたギャップを埋めるためのものかもしれません。
また、どちらかの視点だけに偏ると、企業の評価を誤るリスクがあります。ビジョンだけを見て企業を魅力的に感じても、現場がそれを実践していなければ、入社後に違和感を覚えるかもしれません。逆に、現場の情報にのみ頼ると、企業の長期的な成長戦略を見落とす可能性もあります。両方の視点を持つことで、企業の強みや課題を正確に理解し、自分にとって本当に合った企業を見極めることができるのです。
4. さらに企業への理解を深める方法
「3Cフレームワーク」や「鷹の目、蟻の目」の視点で企業のことが理解出来たら、これまで点でしかとらえられなかった情報が、少しずつ線で繋がっていく感覚が持てるようになると思います。さらに企業理解を深めていきたい場合は、「仮説思考」を活用することが効果的です。
4.1 仮説の立て方
仮説思考を始める際は、まず企業の行動や戦略に対して「なぜそのような選択をしているのか?」と問いかけることが重要です。例えば、企業が新しい事業分野に進出した場合、「市場拡大を目指しているのか?」「既存事業が停滞しているからなのか?」といった仮説を立てることができます。この仮説に基づいて、企業のプレスリリースや業界ニュース、過去の行動を調査し、仮説がどれだけ現実に近いかを検証していきます。
具体的な例として、ある企業が「新興国市場への進出」を発表した場合、その理由を仮説として考えてみます。たとえば「既存市場での成長が鈍化しているからではないか」「新興市場で競争優位を確保したいのではないか」といった仮説を立て、それを裏付けるデータや情報を収集していきます。このプロセスを繰り返すことで、企業がどんな意図で行動しているのか、より明確に理解できるようになります。
4.2 仮説思考を使って企業理解を深める
仮説思考を活用することで、企業の「人格」をより深く理解することが可能です。企業が掲げるビジョンや戦略から仮説を立ててみることで、、企業の内面的な価値観や思考プロセスが見えてきます。
たとえば、ある企業のホームページで、代表の挨拶として「誠実さ」や「顧客第一」を掲げているとします。もしかしたらその企業は、その姿勢こそが事業継続を実現してきた競合優位性であると捉えており、現場にも誠実な仕事を浸透させることで、その地位を確立しているのかもしれません。さらにそこから職場風土を仮説立てしてみると、現場では一定の仕組みに則って業務を進めつつも、顧客のニーズに応じて現場の裁量で対応を変化させたり、利益目標を掲げつつも、法令順守を重視し無理な営業活動を控えたりといった取り組みが行われていると想像することが出来ます。あくまで仮説の域を出ないので、面接などを通じて答え合わせをしていくことが大事ですが、このように、企業がどうしてその価値観を持ち、その行動に至っているのかを仮説思考で探ることで、企業の「人格」をより立体的に捉えることができます。
企業の行動の裏にある意図や価値観を仮説思考で深く掘り下げることで、より核心に迫った企業研究を行うことができます。
※参考:転職を成功に導く逆質問のコツ:面接で役立つ「仮説思考」とは?
5. 企業研究の成果をどのように活かすか
企業研究の目的は「自分に合った職場を探すため」に行われます。ここでは、企業研究の成果を転職活動にどのように活かすかを考えていきます。
5.1 創り上げた企業のイメージと自分の価値観を比較する
企業の「人格」を捉えることが出来たら、次にそれを自分自身の価値観や働き方の希望と照らし合わせていくプロセスに移ります。
- 自分の価値観を再確認する
まず、自分が仕事を通じて何を重視しているのかを明確にしましょう。以下のような質問を使って、あなた自身の価値観を再確認します。- 何を実現するために転職活動をしているのか?
- 自分が求める職場の雰囲気や働き方はどんなものか?
- 長期的なキャリア目標やビジョンに合致する環境か?
- ワークライフバランスや給与、福利厚生において何を優先したいか?
- 企業のイメージと自分の価値観を比較する
これまでに作り上げた企業の「人格」を元に、それが自分の価値観とどれだけ一致しているかを確認します。企業のビジョンや文化が自分の理想と一致するかどうか、そしてその企業で働くことが自分にとって魅力的かどうかを考えてみましょう。具体的には、以下のポイントを考慮に入れます。- 企業のビジョンや成長戦略は、自分が求めるキャリアパスと一致しているか?
- 社風や価値観が、自分にとって心地よいものか?
- 給与や働く環境、福利厚生は、自分のニーズを満たしているか?
企業のビジョンや価値観、条件待遇が自分の希望と合っていたとしても、ここまでお伝えした企業研究の方法で得た成果をもとに検証してみると、「条件は満たしているけど、実際に合うかどうか不安がある」「条件とは違う企業だけど、自分に合っているように思う」などの感覚も生じると思います。そのような違和感は、実際に面接の場などで企業とコミュニケーションを取る中で解消していきましょう。
5.2 企業研究を面接に活かす
企業研究の成果は、面接の場において大いに役立ちます。以下のように企業研究の成果を面接に反映させることで、自分に合った職場かどうかを精度高く検証するとともに、自身の企業からの評価を高める効果的なアピールも行うことができます。
- 面接での質問に応じた企業理解のアピール
「志望動機を教えてください」といった面接官からの質問に対し、自分が企業研究を通じて得た理解を活かして具体的な回答をすることができます。企業情報を眺めただけで志望動機を答えようとすると、誰もが知っているその企業の魅力を語るだけになってしまいますが、企業研究を行いその成果を自分の経歴と照らし合わせ合致するポイントをアピールすることができれば、志望動機にも説得力が増し、面接官に好意的な印象を与えることが可能です。 - 逆質問で企業の理解をさらに深める
面接では、自分から質問する機会もあります。このときに、企業研究を基にした逆質問を行い、さらに企業の実態を深掘りできます。たとえば、企業研究を行う中で「企業の目指すビジョンが実際の仕事にどのように結びついているか」という疑問を持った場合、面接の場において「御社の成長戦略について、現場でどのように反映されていますか?」「社員のキャリア成長を支援する取り組みは具体的にどのようなものですか?」など、企業の実情を確かめる質問をすることで、より働くイメージを鮮明にすることが出来ます。 - 企業研究で感じたことを共有することで意欲をアピール
企業研究で得られた成果をもとに、自身が魅力を感じた点やポジティブな印象を面接で伝えてみることも有効です。「貴社の○○な価値観に共感しました」や「社員インタビューを見て、現場でのチームワークの重要性を感じました」といった具体的なエピソードを交えることで、企業に対する理解を示すとともに、意欲をアピールすることができます。
6. まとめ: 企業の「人格」を理解し、働くイメージを具体化する
企業研究は情報収集だけではなく、企業の「人格」を理解し、自分に合った場所かどうかを見極める大切なプロセスです。自分の価値観と企業の個性が一致すれば、働くことがもっと楽しく、充実したものになります。焦らず、しっかりと企業の「人格」を見極め、自分にピッタリの職場を見つけてください。